2018年12月28日

ばあばのお家はどうなっている?

SACHI(小4)

 「あと、もう少しでつく?」
 ここは新幹線の中。私は、さっきからこのことばっかり聞いている。(今度こそ)と思っていると、ママが、
「あと十分でつきますっていうアナウンスがもうすぐ流れると思うよ。だから、もうすぐつくよ。」
 と言ったので、私は思わず
「わーーーい!」
 とさけんだ。それから、さけんだ数秒後にあわてて口をおさえたけど後の祭りだった。その後ママに、ちょっぴり怒られてしまった。
 しばらくして、駅に着いた。外に出た瞬間、私は
「あっつーーー。」
 とさけんだ。そうしたらママが
「名古屋は暑いからねー。」
 と言う。私が、
「でも、おふろ楽しみー。どんなのかな?」
 と言うとママが、
「ばあば探さなきゃ、ばあば。」
 と言ったので、私は、ばあばを探すことにする。
 ようやくばあばが見つかってママと別れる時間になったけど、私は、
「バイバイ。」
 と言っただけで終わったので、ばあばが、
「そっけな。」
 と言った。私とママは思わず、ぷっとふきだしてしまった。

 それから、ばあばといっしょに、二回名古屋電鉄に乗って、有松駅で、じいじと待ち合わせをして、ばあばのお家に向かう。
 私は、(着いたら、手を洗うついでにおふろどうなってるか見〜よう。…やっぱりや〜めた。後でのお楽しみにしとこう。)なんてことを考えながら、お家に向かう。

 「着いたーー。」
 と私はさけんだ。そして、ばあばに
「早くかぎ開けて。早く、早く、早く。」
 と言ったら、ばあばに
「なんでそんなに急いでるの?そんなに急ぐなら、自分でかぎ開けて。ばあばは、荷物出すから。」
 と言われた。私は、ばあばに渡されたかぎを強くにぎりしめて、階段を一気にかけ上って、
「カチャッ…カチャッ。」
 という音を立てて、かぎを開けた。ドアを開けると、なつかしいあま〜い香りがただよってくる。私は、大きく息を吸って、だあれもいないリビングに向かって思いっきり
「ただいまーーー。」
 とさけんだ。そして上着をぬぎすてて、ソファに向かって飛び込んだ。
「ぽよーん。」
 という音と私の
「きもちーーーい。」
 という声が混ざった音がする。前より、やわらかくなったなあと思いながら、ソファを見ていた。後から教えてもらったことだけど、おふろ以外にも、コンロや、ソファも新しくしたらしい。そのことに、私は気づいていなかったから、びっくりした。





 夏休み明けに書いてもらったものですが、素敵な作品なので、遅くはなりましたが、今年のうちに紹介します。

まずお母さんと主人公の会話のテンポの良さが印象的でした。時には「でも、おふろ楽しみー。どんなのかな?」と聞く主人公に対してお母さんは「ばあば探さなきゃ、ばあば。」と返しているように、二人の会話がすれ違っているようにも見えます。でも逆に実際のやり取りの空気が良く伝わって来て、上手いなぁと思いました。また、お母さんとの別れの場面でのそっけなさには、読んでいる僕もいっしょに、プッと吹き出してしまいました。
後半では、主人公の生き生きとした様子が作文の魅力になっています。特に、誰もいないリビングに向かって「ただいまーーー。」とさけぶ場面は僕のお気にりの場面です。この時、おばあちゃんの家の香りを、懐かしい「甘い」香りと表現しているのにも感心しました。おばあちゃんの家に対する主人公の気持ちまでが伝わってくる素敵な表現ですね。
全編通じて、主人公の魅力が会話や動きを通して感じられる作品でした。これで四年生とは。末恐ろしいです。

塾長





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2018年12月23日

助けてサンタ!

YUKI(中3)、KOTARO.M(中3)、KOHAKU(中3)、OTO(中3)

< 起 >
 「ピッ。」
 改札でパスモをかざし、駅を出る。今年は暖かい日が多かったけど、さすがに12月にもなるとコートが手放せなくなる。
 駅の前ではクリスマスツリーが、飾られていた。

< 承 >
 俺はそのクリスマスツリーに近づいた。大きさはかなり大きくて、ライトアップされていて綺麗だった。周りにはたくさんのカップルがいた。俺には彼女がいなかったので胸が痛んだ。

< 転 >
 クリスマスの時期は毎年胸が痛む。六年間男子校の俺は、全くと言っていいほど女子に縁がない。たまに友達が「デートだ」と言って、俺は遊ぶのを断られる時がある。そんな時は一人で恋愛マンガを読んで妄想した。
 駅前のツリーを見て回っていた時だった。前の方から俺と同じように一人ぼっちで歩いている女の人がいた。あまりにも美人でつい俺は眺めてしまい、俺のハートは撃ち抜かれた。

< 結 >
 つい俺が見とれていると、彼女と目が合ってしまった。彼女がこっちに来る。
「やべっ。」
 俺は慌てて目をそらした。しかし、彼女は目を合わせてきた。
(あーせっかくのクリスマスに怒鳴られるなんてついてないよ。サンタさん助けて!)
「ねー君も一人?」
「へ?」
 怒鳴られると思っていた俺は、つい間の抜けた返事をしてしまった。
「君も一人なら一緒に回ろ。」
「あ、お願いします。」
 俺は彼女と大きなツリーを回ってイルミネーションを見た。
 一通り見終わったので、駅まで送ることにした。駅までの道で、俺はこの幸せの礼を天に向かって何度もした。
「じゃあね。」
「うん、バイバイ。」
 駅まで送ると、また一人になってしまった。
 帰り道、さっきまで気付かなかった寒さが、急に押し寄せてきた。でも、ホッカイロで温まらない奥の方が温められた。
 自分の部屋に帰って宵が過ぎる頃、
「やべ、LINE聞くの忘れた〜。」
 となるのを俺はまだ知らない。




クリスマスの心温まる物語を書いてください、という課題に対して、書かれたリレー作文です。この作品では、起と承をそれぞれ五分程度、転と結をそれぞれ十分程度という限られた時間の中で書いています。突然告げられた課題に対して物語を書き始めたり、初めて目にする文章に続きをつけたりする作業は楽ではありません。そんな中、四人がうまくバトンを繋ぎ、ちょっぴり幸せ感の漂う物語を作ってくれました。
「ホッカイロで温まらない奥の方が温められた。」という一文には他の多くの生徒が感心していたこともつけ加えておきます。
当塾に来たばかりの頃には、すぐに「書くことがありません!」「何を書いて良いかわかりません!」なんて言っていた生徒たちが、いつの間にか、どんな無茶振りにも対応して、短い時間でなんとか物語にしてしまう力がついたことをうれしく思います。みんな良く成長してくれました。さすが中学3年生!

塾長






posted by 塾長 at 18:27 | Comment(0) | TrackBack(0) | 作文紹介

2018年12月21日

クリスマスプレゼント

RISA(中1)

 クリスマスイヴの夜、街は綺麗にライトアップされ、店頭にはプレゼントが並ぶ。
「クリスマスなんて嫌いだ…。」
 私は、街を歩きながらそっと呟く。
 私の両親は、私が幼い頃に死んでしまい、私は親戚の間をたらい回しにされていた。理由は簡単、
「ちっとも笑わない。」
 私はほとんど無表情で生活している。そのせいか、周りからは楽しくないのかと思われて、少し距離をおかれている。
 私自身も一人でいる方が楽しいし、周りも私がいない方がいいと思う。

 私は、今年の四月から新しい家に住んでいる。今まで、クリスマスプレゼントをもらっても喜ばなかった私は、この時期が嫌になる。なぜなら、心配されないよう、無理矢理にでも笑わないといけないからだ。
 普段、無表情の私が笑おうと頑張っても、周りには笑っているようには見えないらしい。それに、
「何が欲しい?」
 と聞かれても、
「何でもいいです。」
 と答えるのが、毎年クリスマスの前に行われる会話だ。今年は、何も聞かれなかったから、プレゼントはきっとないのだろう。少し残念にも思いながら、家への帰り道を急ぐ。

「ただいま。」
 家のドアを開けると、小さな声で言う。この家に来てからもう八ヶ月にもなるが全く慣れることができない。
「あら、おかえりなさい。」
 奥から、この家の持ち主である塔子さんが出て来て、私にそう言う。
「寒かったでしょう。早く中で温まって。それと、ご飯できているわよ。」
 塔子さんは私に優しく笑いながら言ってくれる。
「はい…ありがとうございます。」
 私は少し笑ったつもりで言ったが、塔子さんが少し残念そうな顔をしているので、また無表情だったのだろうと思う。
 リビングに入ると、塔子さんの夫である清さんが新聞を読んでいた。
「おかえり、外は寒くなかったかい?」
 清さんも塔子さんと同じように笑いながら言ってくれるが、私は、また無表情のまま
「大丈夫でした。」
 と言う。
 テーブルの上にチキンなどが置いてある。クリスマスイヴだからだろう。
 三人で、夕飯を食べていたが、塔子さんと清さんが話しているだけで、私は全く話さない。いつもの夕飯が終わり、いつものようにお風呂に入り、いつものように寝る。いつもの行動を行い、私は眠りについた。

 真夜中に、物音がして目が覚めた。うっすらと目を開けると、塔子さんがプレゼントを置いているのが分かった。
「なんだ、塔子さんか。」
 そう思い、もう一度眠りにつこうとする。すると、塔子さんが私の近くに来て、私の頭を優しく撫でた。
「おやすみなさい。」
 小さな声で言い、部屋から出て行った。
 私は、塔子さんの行動に驚き、眠りにつくことができなかった。そっと起きて、足元を見るとプレゼントが置いてあった。
 プレゼントを開けて見てみると、小さな腕時計だった。私はその腕時計が幼いころに母からもらったものととても似ていることが分かった。
「お母さん…。」
 私はそう呟き、自分が泣いているのが分かった。自分でも何故だか分からないが、きっとお母さんのことを思い出したのだろう。泣きながら笑った。今度はしっかりと笑えているような気がした。
「明日、塔子さんにお礼を言おう。今みたいにしっかりと笑って!」
 そう心に刻み、私は腕時計を胸に押し当てた。





クリスマスならではの優しい瞬間を描くために、RISAさんが用意したのは、孤独で頑なな心を持った少女の物語でした。その瞬間の直前、塔子さんがプレゼントを置いているのが分かった時には、読んでいる僕も「なんだ、塔子さんか。」と思いました。でも、次の塔子さんの行動を読んだ時にはちょっと危なかったです。家で一人で読んでいたら、ホロリとさせられていたかもしれません。この頃、歳をとったせいか涙もろい僕は、特に誰かが思いがけず見せる優しさに弱いのです。ちなみに、教室でこの作文を披露した際には、他の子どもたちは特にその場面で大きなリアクションはしていません。ひょっとしたら、大人になってからでないとグッとこないポイントなのでしょうか。だとすれば、なおのこと、ここを一番大切な場面として書いているRISAさんの想像力、理解力に感心します。きっと人の悲しみ、喜びが分かる人なのでしょう。
今回の作文はクリスマスをテーマに心温まる物語を書いてくださいと言うものでした。僕の心は間違いなく温まりました!また、これはフィクションだと分かっていながら、主人公の少女の幸せを祈らずには入られなくなるくらい、僕の心にはグッとくる作品でした。

塾長



posted by 塾長 at 15:14 | Comment(0) | TrackBack(0) | 日記

2018年12月20日

小さな奇跡の宅配便

KOTARO.Y(高2)

仕事終わり

今年も、雪は降らない。冷たい夜の風が、頬に当たったまま離れない。何度この日を一人で過ごしただろうか。
イルミネーションに飾られたビルの間を抜ける。
お決まりの恋人たちの歌は、風と共に流れカップルの景色に溶け込んだ。「お前らの宗教なんだよ」毎年思う言葉も、段々軽くなって薄明かるい月に向かって飛んでいった。
意味もなく、甘い香りに誘われてケーキ屋さんに入る。誰と競っているわけでもないのに、何か負けたくなくて、ケーキを二つ買った。
誰と食べるわけでもないのに…。
マンションの前まで来て、マンションを見上げた。いつもと何ら変わりないのに、電気の点いていない僕の部屋を見て、少し悲しくなった。腕時計は、九時五十五分を指していた。
こんなときに限って、エレベーターは最上階に停まっていた。
ついてねーな。
やっと降りてきたエレベーターに乗り込むと、女の人が走り込んできた。
「すいません」
そう言って、乗り込んできた彼女は少し疲れている様子だった。まだ若く同い年位の彼女は、確か同じ階の人だったと思う。
この人も、誰かとご飯でも行ってきたのかな。
不意にそんなことを考えた。
「今日寒いですね」
突然彼女は話しかけてきた。
「そうですね。昼間はちょうどいい気温だったんですけどね」
「そうなんですよね。お昼食べに外に出たときは寒くなかったんですけどね」
彼女は、そう言ってなんだか少し嬉しそうに笑った。
「ケーキ誰かと食べるんですか?」
別に普段なら何でもない質問に少し虚しさを感じた。
「いや、一人で食べますよ」
「あっ、そうなんですか」
少し気まずい空気になって、二人とも黙ってしまった。十階についてドアが開く。黙ったまま廊下を歩いて、部屋の前に着いた。
「じゃあ、また…。おやすみなさい」
「おやすみなさい」
彼女は、そのまままっすぐ歩いて角の部屋に入って行った。何となく二人とも会釈を交わした。スーツをハンガーにかけて、シャツもズボンもそのままでソファーに座り、テレビを点けた。どの番組もクリスマス特番ばかりだ。何も食べる気にならず、冷凍パスタをチンして食べた。
ピンポーン、インターホンが鳴り、現実に引き戻される。
こんな時間に誰だ?
エレベーターの彼女がドアの前に立っていた。不思議に思いながらドアを開ける。
「どうしたんですか?」
当然の疑問だった。彼女はたまに朝会うだけの人だったから。
「あの、お一人だって聞いたので、私も一人なので一緒にお酒呑みませんか?」
彼女はワインを持ってそう言ってきた。一瞬戸惑ったが、
不思議なクリスマスだな。
と思いながら言った。
「どうぞ、上がってください」
「おじゃまします」
リビングに入ると、カーテンには、ソリの影が映っていた。


高校生

バイトが終わった夜の七時。家に帰る住宅街を歩く。学校では、クリスマスにどこに行こうかと、カップルが話し合っていた。男子も何人かで、遊びに行く計画を立てているようだった。俺は、シフトを頼まれて断りきれずに、バイトすることになってしまった。
今日の、コンビニには、幸せそうな人が多いように感じた。多分いつもと、変わりないんだろうけど。
少し寂しい、クリスマスソングを聞きながら、暗い住宅街を家に向かって歩く。少し大きなため息がこぼれた。
(今年は、一人か…。)
毎年クリスマスは、隣の家の歩美(あゆみ)の家族と過ごしていた。だけど、今年は違う。一週間ほど前にたまたま、廊下で歩美が学校で友達に、クリスマスに遊びに行こうと、誘われているのを聞いてしまった。何やらクラスの格好いい男子も来るらしい。
別に、何も思っていないが、無意識にその場から逃げてしまった。小さい頃からずっと二人で一緒に過ごしてきたクリスマス…。
放課後の部活には全然集中できず。練習にも遅刻してしまい、キャプテンに怒られてしまった。今日は1日中何に対しても身が入らなかった。そんな中、悲劇が起こった。
試合形式の練習中、審判をしていると、突然ボールが飛んできて顔面に当たり、気がつくと保健室で寝ていた。
目を覚ますと。隣には本を読みながら歩美が座っていた。
「あっ、起きた。大丈夫?」
「別に何ともない」
「ボールに当たるとかダメダメだなー」
普段なら何でもないことなのに、何故かイラついた。
「うるさいな」
「なにその言い方、心配してんのに」
「ハイハイ」
仕切りのカーテンを開けて、外に出た。すぐにでも保健室から立ち去りたくて、少し早足になった。
去り際に、嫌味っぽく言った。
「今年のクリスマスは、クラスの子と楽しく遊ぶんだろ。楽しみだね」
保健室から出るとそのまま走り去った。
「そんなの誰から聞いたのー」
去っていく背中に、歩美の声が聞こえた。

そんなこんなで、なるべく歩美と会わないようにして、クリスマスの日を迎えた。バイトを変わったのは後から考えると、良かったかもしれないと思った。
澄んだ冷気が、顔の周りを撫でる。ため息をつくと、ついた分だけ白く夜空に浮かんだ。
家への帰り道、いつもよりため息が多いような気がした。
歩美がいないクリスマスは、初めてで不安があった。今後は、ずっと一人で過ごすのだろうか。
家に着くと、歩美の家の電気は消えていた。
(歩美のお父さんも、お母さんも二人でどこかに行ってるのかな)
ドアの鍵を開けて、手をかける。大きなため息が自然と出た。
「ただいま」
脱力したようにドアにもたれかけながらそう言った。
「お帰り」
歩美の声が聞こえる。(幻聴か…。)そう思って、無視すると、
「お帰り!」
さっきよりも、強く声が聞こえる。顔を上げると、歩美がそこにいた。
「何で、いるの。クラスの子と遊びに行ったんじゃないの?」
「誰もそんなこと言ってないけど」
安心でため息が出た。歩美はすぐにリビングに戻って行ってしまった。
玄関から入った月の光の中に、少し大きなソリの影が通った。


子ども

小さな体をピョコピョコ動かして、無駄に動き回りながら一人で家に帰る。今日は友達が皆インフルエンザで、一緒に帰る人がいない。
石を蹴っ飛ばして、転がしても蹴り返す友達はいない。学級閉鎖は全然楽しくない。石を蹴りながら歩いて行くと、石はコロコロと転がって、曲がり角に消えていった。
別にルールはないけど、なんとなく家まであの石を蹴りたい気分だった。
のそのそとゆっくり歩いて曲がり角に差し掛かると、さっきの石が角から飛び出して来た。
驚いて、後退りする。
(えっ、何で戻って来たの…。)
奇妙な石に少しずつ近づいて行く。しゃがんで石を眺める。特に変わった所は無さそうだった。
恐る恐る石を触ろうとしたとき、突然声をかけられた。
「なにしてるの?」
声に驚いて思わず尻餅をついてしまった。見上げると声の方向には、雪のような白い肌の女の子が立っていた。
「お前こそなにしてんだよ。てか誰だよ。」
驚いたカッコ悪い所を見られて、言葉が少しきつくなっていた。彼女は僕を見下ろしながら言った。
「そんな、ビビりに言う事なんてないわ。」
(ムカつくやつだな。)
すぐに立ち上がって。指を指して言った。
「勝負しろ」
彼女は、ポカンと口を開けて呆れていた。
「男子って、そういうの好きだよね。馬鹿じゃないの」
冷たく彼女はそう言い放った。
「馬鹿ってなんだよ。あっ、さては負けるのが怖いんだろ」
「そんなわけ無いじゃない。何で勝負するの?」
「よし、交渉成立だな」
自信満々で挑んだ勝負。
じゃんけんから始まり、手押し相撲、指相撲、しりとり、お絵描き…。合計十種目で戦った。戦績は十敗で一回も勝てなかった。
(まっ、負けた。)
どや顔で僕を見下ろす彼女に向かって、
「バーカ、 バーカ。ちょっと凄いからって調子のんな!」
そう言って、家に向かって走った。女の子は少し寂しそうな面持ちで、とぼとぼと歩いて行った。
夜ご飯を食べ終え、一人でゲームをしながらケーキを食べていると。突然インターホンが鳴った。
「拓海、出てー」
キッチンから、お母さんの声が聞こえた。ゲームを中断して、玄関に向かう。扉を開けて目の前を見ると、昼間の女の子が立っていた。
「あ」
二人とも同時に言った。女の子の背中には、小さなソリの影が映っていた。


サンタ

一年に一度のこの日、俺は大忙しだ。前日の夜中から準備をして、日付変更線を駆使して全世界に幸せを届ける。キリスト教とか関係なしに、全世界を回る。キリストの奴が幸せを配りたいから手伝えなんて言ってきたから、こんなことになってしまっている。
トナカイを従えて、夜空を飛んでいく。
今年は、約七十億人に幸せを配らなければいけない。全く、何が少子化だよ。
多くの人が勘違いしているのだが、俺は別にプレゼントを配ってる訳ではない。
小さな幸せ、小さな奇跡を起こしているだけだ。プレゼントは、親とか恋人から貰ってくれ。
七十億人もいたら奇跡は小さくなってしまうから。最近はあまり気付かれない。
せっかく配り回ってるんだから気付いて欲しいと思ってる。
面倒くさいけどまあ、当分この仕事を続けて行くつもりだ。
今日は一段と月が綺麗な気がする。
ヤバい、月明かりに照らせれるとバレちまう。

サンタは勢いよく雲の影に向かって飛んでいった。


十二月二十五日には、あなたに小さな奇跡が届きます。是非奇跡を見逃さないように、穏やかな気持ちで待っていて下さい。
ちなみに、当日の時間指定は承っていませんので、ご了承下さい。




最近のKOTARO君の作品には、幸せまでにもう一歩というところにいる登場人物が多いのです。
そしてそれがどれも、ちょっといじらしく、可愛らしく、それらがそのまま作品の魅力になっています。
そんな風に感じるのは、彼らの物事に対する感じ方や、ちょっとした行動パターンに共感できるところが多いからでしょうか。
今回も、格好つけてケーキを二個買ってみたり、何も確かめずに勝手に焼きもちを焼いては幼馴染にイラついたり、驚いたカッコ悪い所を見られて言葉が少しきつくなったり…読んでいて、幼い頃、若い頃の自分の内面を見られているような気分にもなりました。(別に同じことをしたと言っているわけではありませんが。)

また、サンタさんの仕事は「プレゼントを配ることではなく、小さな奇跡を70億人分も起こすこと」という発想も素敵でした。大人にもサンタが来るのかもしれないと思っただけで、僕はほっこりさせてもらいました。大人になってから久しく、自分にサンタさんから何かが届くなどと思ったことはありませんでしたから。
ひょっとしたら、この作品を読んでそんな気持ちになれたことが、すでに小さな奇跡のプレゼントなのかもしれませんね。
この作品を読んでくださった方の多くに、小さくても素敵な奇跡が起こりますように!

塾長




posted by 塾長 at 01:17 | Comment(0) | TrackBack(0) | 作文紹介
プロフィール
名前:塾長
自由が丘で作文教室を運営。
小学生から高校生まで広い年齢層の子供たちとともに、書かされるのではなく、書きたくなる作文を目指して活動中。