2018年12月20日

小さな奇跡の宅配便

KOTARO.Y(高2)

仕事終わり

今年も、雪は降らない。冷たい夜の風が、頬に当たったまま離れない。何度この日を一人で過ごしただろうか。
イルミネーションに飾られたビルの間を抜ける。
お決まりの恋人たちの歌は、風と共に流れカップルの景色に溶け込んだ。「お前らの宗教なんだよ」毎年思う言葉も、段々軽くなって薄明かるい月に向かって飛んでいった。
意味もなく、甘い香りに誘われてケーキ屋さんに入る。誰と競っているわけでもないのに、何か負けたくなくて、ケーキを二つ買った。
誰と食べるわけでもないのに…。
マンションの前まで来て、マンションを見上げた。いつもと何ら変わりないのに、電気の点いていない僕の部屋を見て、少し悲しくなった。腕時計は、九時五十五分を指していた。
こんなときに限って、エレベーターは最上階に停まっていた。
ついてねーな。
やっと降りてきたエレベーターに乗り込むと、女の人が走り込んできた。
「すいません」
そう言って、乗り込んできた彼女は少し疲れている様子だった。まだ若く同い年位の彼女は、確か同じ階の人だったと思う。
この人も、誰かとご飯でも行ってきたのかな。
不意にそんなことを考えた。
「今日寒いですね」
突然彼女は話しかけてきた。
「そうですね。昼間はちょうどいい気温だったんですけどね」
「そうなんですよね。お昼食べに外に出たときは寒くなかったんですけどね」
彼女は、そう言ってなんだか少し嬉しそうに笑った。
「ケーキ誰かと食べるんですか?」
別に普段なら何でもない質問に少し虚しさを感じた。
「いや、一人で食べますよ」
「あっ、そうなんですか」
少し気まずい空気になって、二人とも黙ってしまった。十階についてドアが開く。黙ったまま廊下を歩いて、部屋の前に着いた。
「じゃあ、また…。おやすみなさい」
「おやすみなさい」
彼女は、そのまままっすぐ歩いて角の部屋に入って行った。何となく二人とも会釈を交わした。スーツをハンガーにかけて、シャツもズボンもそのままでソファーに座り、テレビを点けた。どの番組もクリスマス特番ばかりだ。何も食べる気にならず、冷凍パスタをチンして食べた。
ピンポーン、インターホンが鳴り、現実に引き戻される。
こんな時間に誰だ?
エレベーターの彼女がドアの前に立っていた。不思議に思いながらドアを開ける。
「どうしたんですか?」
当然の疑問だった。彼女はたまに朝会うだけの人だったから。
「あの、お一人だって聞いたので、私も一人なので一緒にお酒呑みませんか?」
彼女はワインを持ってそう言ってきた。一瞬戸惑ったが、
不思議なクリスマスだな。
と思いながら言った。
「どうぞ、上がってください」
「おじゃまします」
リビングに入ると、カーテンには、ソリの影が映っていた。


高校生

バイトが終わった夜の七時。家に帰る住宅街を歩く。学校では、クリスマスにどこに行こうかと、カップルが話し合っていた。男子も何人かで、遊びに行く計画を立てているようだった。俺は、シフトを頼まれて断りきれずに、バイトすることになってしまった。
今日の、コンビニには、幸せそうな人が多いように感じた。多分いつもと、変わりないんだろうけど。
少し寂しい、クリスマスソングを聞きながら、暗い住宅街を家に向かって歩く。少し大きなため息がこぼれた。
(今年は、一人か…。)
毎年クリスマスは、隣の家の歩美(あゆみ)の家族と過ごしていた。だけど、今年は違う。一週間ほど前にたまたま、廊下で歩美が学校で友達に、クリスマスに遊びに行こうと、誘われているのを聞いてしまった。何やらクラスの格好いい男子も来るらしい。
別に、何も思っていないが、無意識にその場から逃げてしまった。小さい頃からずっと二人で一緒に過ごしてきたクリスマス…。
放課後の部活には全然集中できず。練習にも遅刻してしまい、キャプテンに怒られてしまった。今日は1日中何に対しても身が入らなかった。そんな中、悲劇が起こった。
試合形式の練習中、審判をしていると、突然ボールが飛んできて顔面に当たり、気がつくと保健室で寝ていた。
目を覚ますと。隣には本を読みながら歩美が座っていた。
「あっ、起きた。大丈夫?」
「別に何ともない」
「ボールに当たるとかダメダメだなー」
普段なら何でもないことなのに、何故かイラついた。
「うるさいな」
「なにその言い方、心配してんのに」
「ハイハイ」
仕切りのカーテンを開けて、外に出た。すぐにでも保健室から立ち去りたくて、少し早足になった。
去り際に、嫌味っぽく言った。
「今年のクリスマスは、クラスの子と楽しく遊ぶんだろ。楽しみだね」
保健室から出るとそのまま走り去った。
「そんなの誰から聞いたのー」
去っていく背中に、歩美の声が聞こえた。

そんなこんなで、なるべく歩美と会わないようにして、クリスマスの日を迎えた。バイトを変わったのは後から考えると、良かったかもしれないと思った。
澄んだ冷気が、顔の周りを撫でる。ため息をつくと、ついた分だけ白く夜空に浮かんだ。
家への帰り道、いつもよりため息が多いような気がした。
歩美がいないクリスマスは、初めてで不安があった。今後は、ずっと一人で過ごすのだろうか。
家に着くと、歩美の家の電気は消えていた。
(歩美のお父さんも、お母さんも二人でどこかに行ってるのかな)
ドアの鍵を開けて、手をかける。大きなため息が自然と出た。
「ただいま」
脱力したようにドアにもたれかけながらそう言った。
「お帰り」
歩美の声が聞こえる。(幻聴か…。)そう思って、無視すると、
「お帰り!」
さっきよりも、強く声が聞こえる。顔を上げると、歩美がそこにいた。
「何で、いるの。クラスの子と遊びに行ったんじゃないの?」
「誰もそんなこと言ってないけど」
安心でため息が出た。歩美はすぐにリビングに戻って行ってしまった。
玄関から入った月の光の中に、少し大きなソリの影が通った。


子ども

小さな体をピョコピョコ動かして、無駄に動き回りながら一人で家に帰る。今日は友達が皆インフルエンザで、一緒に帰る人がいない。
石を蹴っ飛ばして、転がしても蹴り返す友達はいない。学級閉鎖は全然楽しくない。石を蹴りながら歩いて行くと、石はコロコロと転がって、曲がり角に消えていった。
別にルールはないけど、なんとなく家まであの石を蹴りたい気分だった。
のそのそとゆっくり歩いて曲がり角に差し掛かると、さっきの石が角から飛び出して来た。
驚いて、後退りする。
(えっ、何で戻って来たの…。)
奇妙な石に少しずつ近づいて行く。しゃがんで石を眺める。特に変わった所は無さそうだった。
恐る恐る石を触ろうとしたとき、突然声をかけられた。
「なにしてるの?」
声に驚いて思わず尻餅をついてしまった。見上げると声の方向には、雪のような白い肌の女の子が立っていた。
「お前こそなにしてんだよ。てか誰だよ。」
驚いたカッコ悪い所を見られて、言葉が少しきつくなっていた。彼女は僕を見下ろしながら言った。
「そんな、ビビりに言う事なんてないわ。」
(ムカつくやつだな。)
すぐに立ち上がって。指を指して言った。
「勝負しろ」
彼女は、ポカンと口を開けて呆れていた。
「男子って、そういうの好きだよね。馬鹿じゃないの」
冷たく彼女はそう言い放った。
「馬鹿ってなんだよ。あっ、さては負けるのが怖いんだろ」
「そんなわけ無いじゃない。何で勝負するの?」
「よし、交渉成立だな」
自信満々で挑んだ勝負。
じゃんけんから始まり、手押し相撲、指相撲、しりとり、お絵描き…。合計十種目で戦った。戦績は十敗で一回も勝てなかった。
(まっ、負けた。)
どや顔で僕を見下ろす彼女に向かって、
「バーカ、 バーカ。ちょっと凄いからって調子のんな!」
そう言って、家に向かって走った。女の子は少し寂しそうな面持ちで、とぼとぼと歩いて行った。
夜ご飯を食べ終え、一人でゲームをしながらケーキを食べていると。突然インターホンが鳴った。
「拓海、出てー」
キッチンから、お母さんの声が聞こえた。ゲームを中断して、玄関に向かう。扉を開けて目の前を見ると、昼間の女の子が立っていた。
「あ」
二人とも同時に言った。女の子の背中には、小さなソリの影が映っていた。


サンタ

一年に一度のこの日、俺は大忙しだ。前日の夜中から準備をして、日付変更線を駆使して全世界に幸せを届ける。キリスト教とか関係なしに、全世界を回る。キリストの奴が幸せを配りたいから手伝えなんて言ってきたから、こんなことになってしまっている。
トナカイを従えて、夜空を飛んでいく。
今年は、約七十億人に幸せを配らなければいけない。全く、何が少子化だよ。
多くの人が勘違いしているのだが、俺は別にプレゼントを配ってる訳ではない。
小さな幸せ、小さな奇跡を起こしているだけだ。プレゼントは、親とか恋人から貰ってくれ。
七十億人もいたら奇跡は小さくなってしまうから。最近はあまり気付かれない。
せっかく配り回ってるんだから気付いて欲しいと思ってる。
面倒くさいけどまあ、当分この仕事を続けて行くつもりだ。
今日は一段と月が綺麗な気がする。
ヤバい、月明かりに照らせれるとバレちまう。

サンタは勢いよく雲の影に向かって飛んでいった。


十二月二十五日には、あなたに小さな奇跡が届きます。是非奇跡を見逃さないように、穏やかな気持ちで待っていて下さい。
ちなみに、当日の時間指定は承っていませんので、ご了承下さい。




最近のKOTARO君の作品には、幸せまでにもう一歩というところにいる登場人物が多いのです。
そしてそれがどれも、ちょっといじらしく、可愛らしく、それらがそのまま作品の魅力になっています。
そんな風に感じるのは、彼らの物事に対する感じ方や、ちょっとした行動パターンに共感できるところが多いからでしょうか。
今回も、格好つけてケーキを二個買ってみたり、何も確かめずに勝手に焼きもちを焼いては幼馴染にイラついたり、驚いたカッコ悪い所を見られて言葉が少しきつくなったり…読んでいて、幼い頃、若い頃の自分の内面を見られているような気分にもなりました。(別に同じことをしたと言っているわけではありませんが。)

また、サンタさんの仕事は「プレゼントを配ることではなく、小さな奇跡を70億人分も起こすこと」という発想も素敵でした。大人にもサンタが来るのかもしれないと思っただけで、僕はほっこりさせてもらいました。大人になってから久しく、自分にサンタさんから何かが届くなどと思ったことはありませんでしたから。
ひょっとしたら、この作品を読んでそんな気持ちになれたことが、すでに小さな奇跡のプレゼントなのかもしれませんね。
この作品を読んでくださった方の多くに、小さくても素敵な奇跡が起こりますように!

塾長




posted by 塾長 at 01:17 | Comment(0) | TrackBack(0) | 作文紹介
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プロフィール
名前:塾長
自由が丘で作文教室を運営。
小学生から高校生まで広い年齢層の子供たちとともに、書かされるのではなく、書きたくなる作文を目指して活動中。