2012年12月09日

「ナイスキャッチ」@

KAORI(高3)

 風でコンタクトが取れそうになる。瞬きを何回かして、また走り出す。汗でTシャツが背中に貼りつく。(パーカー、脱いで来れば良かったかな。)今日はいつもより自然と足が前へ出てくる。(新しく買ったランニングシューズのおかげかな。)優しい桜色のシューズはコンクリートを優しく蹴る。いつか地元のマラソン大会とかホノルルマラソンに参加出来たらいいなとか初心者ながらに思っている。まだ、ランニングを始めて一カ月しか経っていないけど。それに、始めたきっかけはダイエット。大学生になってからサークルの付き合いで毎日のように居酒屋に行ってたら太ってしまった。高校時代の部活はバスケ部。体力だけはあるから走ることも苦じゃない。むしろ楽しい。

 一カ月も走っていると顔見知りができて走るのがさらに楽しくなる。いつも同じベンチに座っているお年寄りカップルはいつも「頑張れ!」って笑顔で声をかけてくれる。今日も土手の途中にある一本の桜の木の下のベンチから声が聞こえてきた。私は、手を振って「ありがとう!」と言った。四キロくらい走ると同じマンションの夏希さんがコーギーのチャーリーを散歩させていた。川に入ろうとするチャーリーをあわてて夏希さんが止めている。私は、ランニングロードから外れて伸びっぱなしの草の斜面を走り下りて夏希さんとチャーリーの所に行った。
「おぉ!みやび!毎日走ってて偉いねー。」
「こんにちは!いやー、最近走るのが楽しくて楽しくて。チャーリー!」
 私はチャーリーに抱きついて芝生に転がった。チャーリーとイチャイチャしているうちに夏希さんが飲み物を買ってきてくれた。
「はい!」
「わぁー!ありがとうございます!」
 私はアクエリアスを一気に半分飲んでまた芝生に転がった。服がめくれて素肌がのぞく背中に草があたって、くすぐったい。
「ふふっ。」
 私は思わず笑ってしまった。
「何笑ってんの?ふふっ。」
「くすぐったいんです。ふふっ。」
「変なの。ふふっ。」
「ふふっ。夕日、きれいですね。」
「そうね。ふふっ。」
 私は目を閉じた。世界がオレンジ色になった。汗が額から草へ落ちていく。ゆっくりと。チャーリーが走り回っている音がする。誰かがランニングしている。トントントンとすごくテンポがいい。香水の香りが一瞬した。夏希さんが隣に寝っ転がったようだ。夏希さんからは、いつもいい香りがする。
「トンッ。」
 腰に何かが当たった。私は、ゆっくりと目を開けた。ボールだ。誰かが走ってくる。誰だろう。
「すみません。」
 私は、ボールを拾って走ってきた人に投げた。スパッとグローブの中に入った。(我ながら、コントロールがいいなっ。)走ってきた彼は、少し驚いた表情をしてからお辞儀をした。
「ありがとうございます。」
(わぁ。野球部の挨拶だー。)私は自然と笑顔で手を振っていた。彼は、今度は小さくお辞儀をして走っていった。
「夏希さん!野球部っていいですね。ふふっ。」
「そうね。ふふっ。」

「ナイスキャッチ」Aへ進む
posted by 塾長 at 23:55 | Comment(0) | TrackBack(0) | 週一連載小説
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。
この記事へのトラックバックURL
http://blog.sakura.ne.jp/tb/60643752
※ブログオーナーが承認したトラックバックのみ表示されます。

この記事へのトラックバック
プロフィール
名前:塾長
自由が丘で作文教室を運営。
小学生から高校生まで広い年齢層の子供たちとともに、書かされるのではなく、書きたくなる作文を目指して活動中。