2012年12月31日

「ナイスキャッチ」C

KAORI(高3)

 大学の試験がこんなに大変だと思ってなかった。今までサボっていた付けが回ってきた。友達にノートを借りたり色々調べたりまとめていたら一週間以上走りに行くことができなかった。さらに、試験が終わってから死んだように何日間も寝てしまって結局二週間くらい走っていない。今までのランニングの習慣が崩れていた。新しいランニングウェアとシューズも袋から出していない。私は重たい体をゆっくり起こして、夏希さんと二時間以上かけて悩んで買ったランニングウェアを出した。名前は良く分からないけど水色のスカートタイプ。セットのシャツを合わせても違うTシャツを合わせてもマッチする。逆にシューズは一目惚れ。お店に入ってから一分も経たないうちにレジへ向かってたくらい。真っ白で真ん中に一本の青い線が入っている。スカートの色に合わせた靴ひもを丁寧に通していく。早く走りたくなってきた。今日の天気は晴れ。少し風がある。でも、この暑さにはぴったりだ。まだ夕方じゃないけど、走りに行こう。ちょうど夏希さんから走りに行こうと連絡があったのでマンションの下に降りて準備運動を始めた。筋肉痛は避けられないけど肉離れとか怪我は絶対に避けたい。屈伸をしたりアキレス腱を伸ばしているだけなのに、じわじわとTシャツが濡れてくる。風が髪を揺らす。(あっ。髪を結ぶの忘れてた。)私は左手首から、これまた新しく買ったゴムをとってポニーテールをした。ずっと、ショートだったから高い位置で髪が風でなびくとなんだか嬉しい。

 反対側のマンションの影に夏希さんが見えた。スラっとした手足がリズミカルに前へ出てくる。少し茶色のショートヘアが風でなびいていて陸上選手のようだ。(かっこいいなぁ。)
「久しぶり!」
 夏希さんの笑顔には、パワーがある。色々なことを頑張ろうと思える。尊敬できるところが沢山ある。本当に素敵な人だ。
 ゆっくりと走りだした。ここ数週間の出来事を会ったらすぐ話そうと思っていたけど、そんなことすっかり忘れてた。二人のリズムがピッタリで、たまに一人で走っている錯覚に陥る。景色を見るわけでもなく走ることに集中しているわけでもない。ただただ二人で走り続けた。だんだん空がオレンジ色になってきた。
私達はやっと口を開いた。
「こんにちは。」
「あら、みやびちゃん。ひさしぶりねぇ。」
 二週間前と何も変わらない。いつも通り二人でベンチに座っている。
「ちょっと忙しくて。」
「夏希ちゃんは、最近、毎日走ってるのね。」
「みやびに影響されちゃって。」
「走ることは、いいことだ。続けなさい。」
「なんか、おじいちゃんに言われると、絶対続けなきゃいけないって思う!続けます!」
「私も、もうサボりません!」
 久しぶりに人と沢山お話して楽しかった。二週間何やってたんだろう。もったいなかったな。
「あっ、そうだ。みやび決勝戦応援しに行かないの?」
「決勝戦って?」
「もー。ずっと寝てるからこうなっちゃうんだよー。」
「えー?なにー?」
 私は夏希さんの顔を見た。そして、おばあちゃんとおじいちゃんのにこやかな顔を見て、また夏希さんの顔を見た。
「もー。みやび、やだー。大輔君だよ!」
「えっ!?」
(大輔君。大輔君、野球。野球…。)
「野球!」
 私は、自分でもびっくりするくらい大きい声を出してしまった。三人は笑い出した。
「次の試合で勝てれば、桜月高校、甲子園に出られるんだよ!」
 思わず夏希さんに抱きついてしまった。全く知らなかった。
「すごーい。」
「試合は明後日だよ。私もおじいちゃんと応援に行くから、みやびちゃんも夏希ちゃんと応援に行ったらいいよ。」
「絶対行く!夏希さん、行きません?」
「言われなくても行くつもりだったよ。」
「やった!」
 私はもう甲子園出場が決まったかのように喜んだ。大輔君に会いたい。この時間なら会えるかな。
「みやび、大輔君のこと考えてるでしょ?」
「えっ。バレちゃいましたか?」
 流すように笑ってみた。夏希さんには全てお見通しらしい。
「行って来なよ。」
 夏希さんの笑顔のパワーだ。


「ナイスキャッチ」Dに続く


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posted by 塾長 at 22:33 | Comment(0) | TrackBack(0) | 週一連載小説
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プロフィール
名前:塾長
自由が丘で作文教室を運営。
小学生から高校生まで広い年齢層の子供たちとともに、書かされるのではなく、書きたくなる作文を目指して活動中。