2019年03月15日

ぼくのミス

HARUKI(小6)

 「あと少し。」
 またミスった。神のテル君がいるが、一対0で押されている。敵は、カードのこっそり交換などをする疑いがある。そのようなことでぼくたちのジャマをしてくる。そのおかげで、テル君の十のセットが七とまちがえてなかなかそろわない。
 最終ターンで敵が六を引いてくれた。これで六が四枚そろった。しかし、テル君がまたミスして、七を引いてしまった。
 ぼくのターン。まず一枚目を引く。正解だった。そして二枚目を引く。まちがえた。六をさがして三枚目を引く。またまちがえた。ついに運命の四枚目…。なんと、ちがうカードだった。
 さらに、ぼくは、大ミスをしてしまった。ここでテル君に代わるところが、ぼくは、そのまま引いてしまった。そのおかげで負けてしまった。もし仮にここでテル君に代わっていたら、勝てていただろう。その後、テル君と少しケンカになった。
 テル君「なんで引いたんだよ。」
 自分「おまえ七引いてたじゃん。」
 ……
 でも実際にここでぼくが代わっていたら勝てていたから、ぼくのミスで負けたのだ。



この作文はトランプの神経衰弱をしているシーンを描いたものです。ただし当塾の神経衰弱はちょっと特殊でトランプ2セットを使って行います。ですから同じ数字が4枚揃って初めてポイントになるという過酷なルールなのです。4枚揃えるのはなかなか難しく、子どもたちはチーム内で協力しながら、少々ムキになるくらいの真剣さで取り組んでいるのです。
主人公HARUKI君のチームは1ポイントの劣勢ではあるものの、チームの最後のターンを前にどうやら六のカードの居場所を4枚分把握し、まさに同点のチャンスを迎えたあたりから作文は書かれています。

さて、今回この作文を紹介しようと思ったのは、この作文を授業の最後に音読した際、教室にちょっとした感動の空気が流れたからです。作文にもあるように神経衰弱を終えた段階では、HARUKI君とテル君のチームは気まずい雰囲気で終わっています。しかし、いざ作文を書き始めると、HARUKI君は冷静に負けた瞬間を描きつつ、その敗因は自分にあったと理解し、それを素直に文章にしてみせたのです。自分のミスを認めて、それを表明するという大人でも難しい行為を、作文の中で潔くやったことは脇で見ている僕にも驚きでしたし、ちょっとした清々しさを感じました。この作文を聞いていた短い時間にテル君の表情が見る見る変わっていったのも印象的でした。
HARUKI君自身、この作文で自分の落ち度を認めることで随分気持ちが軽くなったように見えました。2人はスッキリした顔で授業を終えました。
文章を書くことで心の整理をし、自分の心の中に鬱屈してしまいかねない思いを素直に文章にできたことは、これまでのHARUKI君にはなかったことで、この作文は単に神経衰弱の様子を書いただけではなく、HARUKI君の成長の瞬間の記録となりました。

塾長





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2019年02月03日

デイビス

KOTARO.I(高2)

 俺の名はデイビス。実は俺には人に言えない秘密がある。だから言うことはできない。しかし秘密は誰かに言うためにあると祖父のデイビジョンが言っていたので話そうと思う。
 俺は好きな時に鬼化することができる。鬼化とは角が生えたり、肌が赤くなったりすると言う残念な点があるが、身体能力が大幅に向上すると言う効果がある。この力を使って俺はライバルであるライアンを倒さなければならない。ライアンは俺と同じく鬼化の能力を持っている。ライアンは極悪人だ。だから倒さなければならない。今はライアンの住み家に向かっているところだ。

 「ピンポーン。」
 俺はライアンの家のベルを鳴らした。
「はーい。」
 家の中から声が聞こえた。ドアが開くと同時に俺は大声で言う。
「今日こそ貴様を倒す!」
「あらまぁ、デイビスちゃんじゃない!また遊びに来てくれたの?ありがとね。」
 ドアから出て来たのはライアンの母さんだった。どうやらさっきのは聞かれなかったらしい。俺は内心ほっとする。
「はい!ライアン君はいますか?」
「ライアンなら部屋に居ると思うわよ。どうぞ上がってください。」
「ありがとうございます。」

 俺は部屋に上がった。この瞬間からライアンとの戦いが始まる。お互いに鬼化して格闘技を行う。先に参ったと言うか気絶した方が負けだ。
「オリャー。」
「ギャー。」
「ウリャー。」
「キャー。」
 壮絶な戦いの末に俺はライアンに尻餅をつかせた。
「これで最後だ。ライアン!」
「それはどうかな。」
 ライアンはポケットから豆を取り出して食べるのかと思えば俺に投げつけた。
「何をする。」
 豆が俺の体に当たると同時に、力が抜けて鬼化が解けてしまった。
「今だ!」
 次の瞬間ライアンは俺の目の前から消えた。俺は顔に重い一撃をくらった。
 
 目が覚めると、俺はライアンのベッドで寝ていた。
「惜しかったなぁ、デイビス。」
「ちっ。また負けたか。」
「今回はちょっと危なかった。」
「貴様!何をしやがった!」
「それは秘密だ。」
「ちっ。明日こそは必ず勝つ。」
「それはどうかな。」
 今回は負けてしまったが、明日がある。ライアンを倒すまで俺の戦いは終わらない。俺は家に帰る途中大声で
「ライアン!いつか必ず貴様を倒すからな。」
 と言った。



節分ということで、鬼が出てくる短編を書いてくださいという課題に対して書かれた作品です。
てっきり怖い話かと思って読み始めれば、いきなり人に言えないはずの秘密をベラベラ語るし、敵のお母さんは良い人そうだし、どこかとぼけた語り口のKOTARO.Iワールド全開です。読みながら、どことなく漫画を読んでいるような感覚を覚えるのは僕だけでしょうか。互いに鬼化しているくせに豆を投げて鬼を倒すというあたり、節分が題材であることも考慮して上手にまとめてくれました。気楽に楽しく読める鬼の物語でした。

塾長


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2019年02月02日

試験のこころえ

KOTARO.Y(高2)

「寒っ…。」
朝起きて、一番初めに発せられた言葉。
ここ最近、毎日言っている。
今日も何の変哲もない普段通りの朝に見える。
いや、見えて欲しいという願望なのかもしれない。
はぁ…。
朝からため息が出る。フリースを羽織って、部屋を出てご飯を食べに下の階へ向かう。
ヨーグルトを食べてからパンを噛る。朝のニュースを聞き流しながらお茶を一口飲む。
ふと冷蔵庫に貼ってあるカレンダーが見えた。
『試験日』
赤い文字で書かれ花丸で目立つようになっているその日、今日だ。
はぁ…。
自然とまた、ため息が漏れた。
食器をシンクに置いて、自分の部屋に戻る。上に上がろうと階段を二、三段ゆっくりと上る。ふと足が止まり、壁にもたれかかって階段の上を眺める。
頭が、コツン…、と壁にぶつかった。
何でもないのに、急に泣きそうになった。
時間は、刻々と過ぎていく。
重たい足をどうにか上げて、一歩前に踏み出した。その勢いのまま階段をかけ上がった。
ドアを開けて部屋に入る。着替えて洗面所に向かう。歯を磨いているとき、ふと鏡を見た。正面には、不安そうな顔をした奴がいた。
クチュ、クチュ、クチュ…、口を濯いで、吐き出す。冷たい水で顔を洗い、顔をタオルで拭いて、引き締まった顔でもう一度鏡を見る。
そこにはやっぱり不安そうな顔をしてる奴が立っていた。
後ろを向いて、部屋のドアに手をかけた。何となくもう一度、鏡と向き合った。
やっぱり不安そうな奴がいる。
握りこぶしを作って、心臓を二回叩く。
ドン、ドン。
拳を正面に向け、向こう側と合わせる。
顔を上げると、正面には余裕そうな顔をした奴がいた。そいつに向けて、ちょっとイジワルそうに言った。
「せいぜい、頑張れよ」
部屋に入り、バックと携帯を持って部屋を出る。鏡はもう見なかった。
階段を駆け降りると、廊下に婆ちゃんが立っていた。
「何をそんな急いどんの。何か良いことでもあんのかい?」
「はぁ…。テストがあんの」
「あぁ、テストか」
「そうそう」
「まあ、楽しんできな」
「はぁ…。婆ちゃん、楽しいわけないじゃん」
「何、言ってんだい。あんたは、死ぬ訳じゃないんだし。せっかくやるなら楽しみな」
「ハイハイ。行ってきまーす。婆ちゃん鍵閉めといてー」
そう言って、玄関を開けて走り出した。

 電車に乗り込むと、周りには多くの学生がいる。皆、単語帳や教科書を開いて勉強している。鞄から単語帳を取り出して、最後の追い込みをかける。電車に揺られていると、段々と嫌な雰囲気を感じた。
お腹が痛い…。
電車に揺られながら便意に耐える。
あと、三駅…。
あと、二駅。
あと一駅。
駅に着くと勢いよく、ホームに飛び出して看板を見た。
(右だ。)
誰よりも早く、ホームを駆け抜けて、階段を登り、トイレに駆け込んだ。携帯と、にらみ合いながら、トイレを済ませる。しかし、なかなかすっきりしない。
下痢が続く。
段々と時間が過ぎていき、トイレを出た頃には、試験十五分前になっていた。
(ヤバい。ヤバい。)
走って試験会場に向かう。玄関の前に着くと、六十代くらいのおじさんが立っていた。
「大丈夫?走ってきたの?」
「はぁ、はぁ、はぁ…。大丈夫です」
「そこの階段上がって二階だから」
そう言ってドアを開けてくれた。頭を下げて中に入る。

 教室の扉を開けると、既に多くの受験生が座って、教科書や参考書、ノートなどを読み返していた。
「受験票を机の上に置いて、静かに待っていて下さい」
解答用紙と、問題用紙が配られる。
「それでは、始めてください」
一斉に、紙を捲る音が聞こえる。
まだ開かない。
目を瞑って、大きく深呼吸をする。
目を開けて問題用紙を見ると、婆ちゃんの言葉を思い出した。
「楽しんできな」
なんだか、面白くなって、つい、頬が緩んでニヤっと笑ってしまった。
一ページ目を捲る。

 楽しんだもん勝ちだ。



 受験シーズンまっただ中のこの時期、多くの子どもたちが不安と戦いながらも目標を達成するために、ドアを出て行きます。親としても、塾の講師としても、なんとも胃がキリキリする季節です。
 今回は、来年には自分自身が受験生となるKOTARO君にお願いして、受験生へのエールとなる作品を書いてもらいました。お願いしてからほぼ1時間で、さらさらと書き上げられた短編は、さすが現役高校生が書くだけあって、試験を目前にした心境や体調の変化がリアルに書かれています。でも、ただ大変なだけでなく、ちゃんと「楽しんだもの勝ちだよ」というメッセージも込められていて、素敵なエールにもなっています。厳しい時間の中にもちょっと温かさを感じられる作品で、多くの受験生に読んでもらいたいなぁと思いました。

塾長








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2018年12月28日

ばあばのお家はどうなっている?

SACHI(小4)

 「あと、もう少しでつく?」
 ここは新幹線の中。私は、さっきからこのことばっかり聞いている。(今度こそ)と思っていると、ママが、
「あと十分でつきますっていうアナウンスがもうすぐ流れると思うよ。だから、もうすぐつくよ。」
 と言ったので、私は思わず
「わーーーい!」
 とさけんだ。それから、さけんだ数秒後にあわてて口をおさえたけど後の祭りだった。その後ママに、ちょっぴり怒られてしまった。
 しばらくして、駅に着いた。外に出た瞬間、私は
「あっつーーー。」
 とさけんだ。そうしたらママが
「名古屋は暑いからねー。」
 と言う。私が、
「でも、おふろ楽しみー。どんなのかな?」
 と言うとママが、
「ばあば探さなきゃ、ばあば。」
 と言ったので、私は、ばあばを探すことにする。
 ようやくばあばが見つかってママと別れる時間になったけど、私は、
「バイバイ。」
 と言っただけで終わったので、ばあばが、
「そっけな。」
 と言った。私とママは思わず、ぷっとふきだしてしまった。

 それから、ばあばといっしょに、二回名古屋電鉄に乗って、有松駅で、じいじと待ち合わせをして、ばあばのお家に向かう。
 私は、(着いたら、手を洗うついでにおふろどうなってるか見〜よう。…やっぱりや〜めた。後でのお楽しみにしとこう。)なんてことを考えながら、お家に向かう。

 「着いたーー。」
 と私はさけんだ。そして、ばあばに
「早くかぎ開けて。早く、早く、早く。」
 と言ったら、ばあばに
「なんでそんなに急いでるの?そんなに急ぐなら、自分でかぎ開けて。ばあばは、荷物出すから。」
 と言われた。私は、ばあばに渡されたかぎを強くにぎりしめて、階段を一気にかけ上って、
「カチャッ…カチャッ。」
 という音を立てて、かぎを開けた。ドアを開けると、なつかしいあま〜い香りがただよってくる。私は、大きく息を吸って、だあれもいないリビングに向かって思いっきり
「ただいまーーー。」
 とさけんだ。そして上着をぬぎすてて、ソファに向かって飛び込んだ。
「ぽよーん。」
 という音と私の
「きもちーーーい。」
 という声が混ざった音がする。前より、やわらかくなったなあと思いながら、ソファを見ていた。後から教えてもらったことだけど、おふろ以外にも、コンロや、ソファも新しくしたらしい。そのことに、私は気づいていなかったから、びっくりした。





 夏休み明けに書いてもらったものですが、素敵な作品なので、遅くはなりましたが、今年のうちに紹介します。

まずお母さんと主人公の会話のテンポの良さが印象的でした。時には「でも、おふろ楽しみー。どんなのかな?」と聞く主人公に対してお母さんは「ばあば探さなきゃ、ばあば。」と返しているように、二人の会話がすれ違っているようにも見えます。でも逆に実際のやり取りの空気が良く伝わって来て、上手いなぁと思いました。また、お母さんとの別れの場面でのそっけなさには、読んでいる僕もいっしょに、プッと吹き出してしまいました。
後半では、主人公の生き生きとした様子が作文の魅力になっています。特に、誰もいないリビングに向かって「ただいまーーー。」とさけぶ場面は僕のお気にりの場面です。この時、おばあちゃんの家の香りを、懐かしい「甘い」香りと表現しているのにも感心しました。おばあちゃんの家に対する主人公の気持ちまでが伝わってくる素敵な表現ですね。
全編通じて、主人公の魅力が会話や動きを通して感じられる作品でした。これで四年生とは。末恐ろしいです。

塾長





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2018年12月23日

助けてサンタ!

YUKI(中3)、KOTARO.M(中3)、KOHAKU(中3)、OTO(中3)

< 起 >
 「ピッ。」
 改札でパスモをかざし、駅を出る。今年は暖かい日が多かったけど、さすがに12月にもなるとコートが手放せなくなる。
 駅の前ではクリスマスツリーが、飾られていた。

< 承 >
 俺はそのクリスマスツリーに近づいた。大きさはかなり大きくて、ライトアップされていて綺麗だった。周りにはたくさんのカップルがいた。俺には彼女がいなかったので胸が痛んだ。

< 転 >
 クリスマスの時期は毎年胸が痛む。六年間男子校の俺は、全くと言っていいほど女子に縁がない。たまに友達が「デートだ」と言って、俺は遊ぶのを断られる時がある。そんな時は一人で恋愛マンガを読んで妄想した。
 駅前のツリーを見て回っていた時だった。前の方から俺と同じように一人ぼっちで歩いている女の人がいた。あまりにも美人でつい俺は眺めてしまい、俺のハートは撃ち抜かれた。

< 結 >
 つい俺が見とれていると、彼女と目が合ってしまった。彼女がこっちに来る。
「やべっ。」
 俺は慌てて目をそらした。しかし、彼女は目を合わせてきた。
(あーせっかくのクリスマスに怒鳴られるなんてついてないよ。サンタさん助けて!)
「ねー君も一人?」
「へ?」
 怒鳴られると思っていた俺は、つい間の抜けた返事をしてしまった。
「君も一人なら一緒に回ろ。」
「あ、お願いします。」
 俺は彼女と大きなツリーを回ってイルミネーションを見た。
 一通り見終わったので、駅まで送ることにした。駅までの道で、俺はこの幸せの礼を天に向かって何度もした。
「じゃあね。」
「うん、バイバイ。」
 駅まで送ると、また一人になってしまった。
 帰り道、さっきまで気付かなかった寒さが、急に押し寄せてきた。でも、ホッカイロで温まらない奥の方が温められた。
 自分の部屋に帰って宵が過ぎる頃、
「やべ、LINE聞くの忘れた〜。」
 となるのを俺はまだ知らない。




クリスマスの心温まる物語を書いてください、という課題に対して、書かれたリレー作文です。この作品では、起と承をそれぞれ五分程度、転と結をそれぞれ十分程度という限られた時間の中で書いています。突然告げられた課題に対して物語を書き始めたり、初めて目にする文章に続きをつけたりする作業は楽ではありません。そんな中、四人がうまくバトンを繋ぎ、ちょっぴり幸せ感の漂う物語を作ってくれました。
「ホッカイロで温まらない奥の方が温められた。」という一文には他の多くの生徒が感心していたこともつけ加えておきます。
当塾に来たばかりの頃には、すぐに「書くことがありません!」「何を書いて良いかわかりません!」なんて言っていた生徒たちが、いつの間にか、どんな無茶振りにも対応して、短い時間でなんとか物語にしてしまう力がついたことをうれしく思います。みんな良く成長してくれました。さすが中学3年生!

塾長






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2018年12月20日

小さな奇跡の宅配便

KOTARO.Y(高2)

仕事終わり

今年も、雪は降らない。冷たい夜の風が、頬に当たったまま離れない。何度この日を一人で過ごしただろうか。
イルミネーションに飾られたビルの間を抜ける。
お決まりの恋人たちの歌は、風と共に流れカップルの景色に溶け込んだ。「お前らの宗教なんだよ」毎年思う言葉も、段々軽くなって薄明かるい月に向かって飛んでいった。
意味もなく、甘い香りに誘われてケーキ屋さんに入る。誰と競っているわけでもないのに、何か負けたくなくて、ケーキを二つ買った。
誰と食べるわけでもないのに…。
マンションの前まで来て、マンションを見上げた。いつもと何ら変わりないのに、電気の点いていない僕の部屋を見て、少し悲しくなった。腕時計は、九時五十五分を指していた。
こんなときに限って、エレベーターは最上階に停まっていた。
ついてねーな。
やっと降りてきたエレベーターに乗り込むと、女の人が走り込んできた。
「すいません」
そう言って、乗り込んできた彼女は少し疲れている様子だった。まだ若く同い年位の彼女は、確か同じ階の人だったと思う。
この人も、誰かとご飯でも行ってきたのかな。
不意にそんなことを考えた。
「今日寒いですね」
突然彼女は話しかけてきた。
「そうですね。昼間はちょうどいい気温だったんですけどね」
「そうなんですよね。お昼食べに外に出たときは寒くなかったんですけどね」
彼女は、そう言ってなんだか少し嬉しそうに笑った。
「ケーキ誰かと食べるんですか?」
別に普段なら何でもない質問に少し虚しさを感じた。
「いや、一人で食べますよ」
「あっ、そうなんですか」
少し気まずい空気になって、二人とも黙ってしまった。十階についてドアが開く。黙ったまま廊下を歩いて、部屋の前に着いた。
「じゃあ、また…。おやすみなさい」
「おやすみなさい」
彼女は、そのまままっすぐ歩いて角の部屋に入って行った。何となく二人とも会釈を交わした。スーツをハンガーにかけて、シャツもズボンもそのままでソファーに座り、テレビを点けた。どの番組もクリスマス特番ばかりだ。何も食べる気にならず、冷凍パスタをチンして食べた。
ピンポーン、インターホンが鳴り、現実に引き戻される。
こんな時間に誰だ?
エレベーターの彼女がドアの前に立っていた。不思議に思いながらドアを開ける。
「どうしたんですか?」
当然の疑問だった。彼女はたまに朝会うだけの人だったから。
「あの、お一人だって聞いたので、私も一人なので一緒にお酒呑みませんか?」
彼女はワインを持ってそう言ってきた。一瞬戸惑ったが、
不思議なクリスマスだな。
と思いながら言った。
「どうぞ、上がってください」
「おじゃまします」
リビングに入ると、カーテンには、ソリの影が映っていた。


高校生

バイトが終わった夜の七時。家に帰る住宅街を歩く。学校では、クリスマスにどこに行こうかと、カップルが話し合っていた。男子も何人かで、遊びに行く計画を立てているようだった。俺は、シフトを頼まれて断りきれずに、バイトすることになってしまった。
今日の、コンビニには、幸せそうな人が多いように感じた。多分いつもと、変わりないんだろうけど。
少し寂しい、クリスマスソングを聞きながら、暗い住宅街を家に向かって歩く。少し大きなため息がこぼれた。
(今年は、一人か…。)
毎年クリスマスは、隣の家の歩美(あゆみ)の家族と過ごしていた。だけど、今年は違う。一週間ほど前にたまたま、廊下で歩美が学校で友達に、クリスマスに遊びに行こうと、誘われているのを聞いてしまった。何やらクラスの格好いい男子も来るらしい。
別に、何も思っていないが、無意識にその場から逃げてしまった。小さい頃からずっと二人で一緒に過ごしてきたクリスマス…。
放課後の部活には全然集中できず。練習にも遅刻してしまい、キャプテンに怒られてしまった。今日は1日中何に対しても身が入らなかった。そんな中、悲劇が起こった。
試合形式の練習中、審判をしていると、突然ボールが飛んできて顔面に当たり、気がつくと保健室で寝ていた。
目を覚ますと。隣には本を読みながら歩美が座っていた。
「あっ、起きた。大丈夫?」
「別に何ともない」
「ボールに当たるとかダメダメだなー」
普段なら何でもないことなのに、何故かイラついた。
「うるさいな」
「なにその言い方、心配してんのに」
「ハイハイ」
仕切りのカーテンを開けて、外に出た。すぐにでも保健室から立ち去りたくて、少し早足になった。
去り際に、嫌味っぽく言った。
「今年のクリスマスは、クラスの子と楽しく遊ぶんだろ。楽しみだね」
保健室から出るとそのまま走り去った。
「そんなの誰から聞いたのー」
去っていく背中に、歩美の声が聞こえた。

そんなこんなで、なるべく歩美と会わないようにして、クリスマスの日を迎えた。バイトを変わったのは後から考えると、良かったかもしれないと思った。
澄んだ冷気が、顔の周りを撫でる。ため息をつくと、ついた分だけ白く夜空に浮かんだ。
家への帰り道、いつもよりため息が多いような気がした。
歩美がいないクリスマスは、初めてで不安があった。今後は、ずっと一人で過ごすのだろうか。
家に着くと、歩美の家の電気は消えていた。
(歩美のお父さんも、お母さんも二人でどこかに行ってるのかな)
ドアの鍵を開けて、手をかける。大きなため息が自然と出た。
「ただいま」
脱力したようにドアにもたれかけながらそう言った。
「お帰り」
歩美の声が聞こえる。(幻聴か…。)そう思って、無視すると、
「お帰り!」
さっきよりも、強く声が聞こえる。顔を上げると、歩美がそこにいた。
「何で、いるの。クラスの子と遊びに行ったんじゃないの?」
「誰もそんなこと言ってないけど」
安心でため息が出た。歩美はすぐにリビングに戻って行ってしまった。
玄関から入った月の光の中に、少し大きなソリの影が通った。


子ども

小さな体をピョコピョコ動かして、無駄に動き回りながら一人で家に帰る。今日は友達が皆インフルエンザで、一緒に帰る人がいない。
石を蹴っ飛ばして、転がしても蹴り返す友達はいない。学級閉鎖は全然楽しくない。石を蹴りながら歩いて行くと、石はコロコロと転がって、曲がり角に消えていった。
別にルールはないけど、なんとなく家まであの石を蹴りたい気分だった。
のそのそとゆっくり歩いて曲がり角に差し掛かると、さっきの石が角から飛び出して来た。
驚いて、後退りする。
(えっ、何で戻って来たの…。)
奇妙な石に少しずつ近づいて行く。しゃがんで石を眺める。特に変わった所は無さそうだった。
恐る恐る石を触ろうとしたとき、突然声をかけられた。
「なにしてるの?」
声に驚いて思わず尻餅をついてしまった。見上げると声の方向には、雪のような白い肌の女の子が立っていた。
「お前こそなにしてんだよ。てか誰だよ。」
驚いたカッコ悪い所を見られて、言葉が少しきつくなっていた。彼女は僕を見下ろしながら言った。
「そんな、ビビりに言う事なんてないわ。」
(ムカつくやつだな。)
すぐに立ち上がって。指を指して言った。
「勝負しろ」
彼女は、ポカンと口を開けて呆れていた。
「男子って、そういうの好きだよね。馬鹿じゃないの」
冷たく彼女はそう言い放った。
「馬鹿ってなんだよ。あっ、さては負けるのが怖いんだろ」
「そんなわけ無いじゃない。何で勝負するの?」
「よし、交渉成立だな」
自信満々で挑んだ勝負。
じゃんけんから始まり、手押し相撲、指相撲、しりとり、お絵描き…。合計十種目で戦った。戦績は十敗で一回も勝てなかった。
(まっ、負けた。)
どや顔で僕を見下ろす彼女に向かって、
「バーカ、 バーカ。ちょっと凄いからって調子のんな!」
そう言って、家に向かって走った。女の子は少し寂しそうな面持ちで、とぼとぼと歩いて行った。
夜ご飯を食べ終え、一人でゲームをしながらケーキを食べていると。突然インターホンが鳴った。
「拓海、出てー」
キッチンから、お母さんの声が聞こえた。ゲームを中断して、玄関に向かう。扉を開けて目の前を見ると、昼間の女の子が立っていた。
「あ」
二人とも同時に言った。女の子の背中には、小さなソリの影が映っていた。


サンタ

一年に一度のこの日、俺は大忙しだ。前日の夜中から準備をして、日付変更線を駆使して全世界に幸せを届ける。キリスト教とか関係なしに、全世界を回る。キリストの奴が幸せを配りたいから手伝えなんて言ってきたから、こんなことになってしまっている。
トナカイを従えて、夜空を飛んでいく。
今年は、約七十億人に幸せを配らなければいけない。全く、何が少子化だよ。
多くの人が勘違いしているのだが、俺は別にプレゼントを配ってる訳ではない。
小さな幸せ、小さな奇跡を起こしているだけだ。プレゼントは、親とか恋人から貰ってくれ。
七十億人もいたら奇跡は小さくなってしまうから。最近はあまり気付かれない。
せっかく配り回ってるんだから気付いて欲しいと思ってる。
面倒くさいけどまあ、当分この仕事を続けて行くつもりだ。
今日は一段と月が綺麗な気がする。
ヤバい、月明かりに照らせれるとバレちまう。

サンタは勢いよく雲の影に向かって飛んでいった。


十二月二十五日には、あなたに小さな奇跡が届きます。是非奇跡を見逃さないように、穏やかな気持ちで待っていて下さい。
ちなみに、当日の時間指定は承っていませんので、ご了承下さい。




最近のKOTARO君の作品には、幸せまでにもう一歩というところにいる登場人物が多いのです。
そしてそれがどれも、ちょっといじらしく、可愛らしく、それらがそのまま作品の魅力になっています。
そんな風に感じるのは、彼らの物事に対する感じ方や、ちょっとした行動パターンに共感できるところが多いからでしょうか。
今回も、格好つけてケーキを二個買ってみたり、何も確かめずに勝手に焼きもちを焼いては幼馴染にイラついたり、驚いたカッコ悪い所を見られて言葉が少しきつくなったり…読んでいて、幼い頃、若い頃の自分の内面を見られているような気分にもなりました。(別に同じことをしたと言っているわけではありませんが。)

また、サンタさんの仕事は「プレゼントを配ることではなく、小さな奇跡を70億人分も起こすこと」という発想も素敵でした。大人にもサンタが来るのかもしれないと思っただけで、僕はほっこりさせてもらいました。大人になってから久しく、自分にサンタさんから何かが届くなどと思ったことはありませんでしたから。
ひょっとしたら、この作品を読んでそんな気持ちになれたことが、すでに小さな奇跡のプレゼントなのかもしれませんね。
この作品を読んでくださった方の多くに、小さくても素敵な奇跡が起こりますように!

塾長




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2018年11月24日

僕にとって美しいものとは

KOTARO.M(中3)

 僕は、外を歩きながら今日のテーマ「美しいもの」を探していた。しかし僕は美しいと感じたことがほとんどないのだ。だから今回のテーマは僕にとってものすごく難しいことなのだ。

 美しいものとは何だろうと考えながら歩いていた。美しいものがどれなのかは見たら分かるが、その美しいものを見て大人みたいには感動できないのだ。感動をしていないということはまだ自分の人生の中で本当に美しいものと出会ったことがないのだと思う。それかまだ長く生きていないからだ。なぜ歳をとると美しく感じるかは、僕が大きくなってから分かることだから今知る必要はないと思う。このように僕は美しいからといって感動するというわけではないのだ。

 こんなことを考えながら歩いていたが、美しいものをまだ見つけられていなかった。僕は今までの人生で一番美しかったものとは何だろうと必死に思い出そうとしていた。すると、頭の中で一つだけ見つけることができた。それは坂本龍一というピアニストだ。僕はこの人の曲を聴いた時、心が落ち着き美しいと感じた記憶があった。坂本龍一の作る美しい音楽は世界でも感動を与えているのだ。僕も美しいものを作り上げ人々に感動を与えたいと思った。




「あなたにとって美しいものとは何ですか」というテーマについて考えながら、クリスマス前のキラキラした自由が丘の街を歩きました。

記憶の中まで探してようやく見つけた美しいものは、目に見えない形のないものだったということに、少し感動してしまいました。文中でKOTARO君は美しいものに感動することはないと書いていますが、坂本龍一さんの音楽の中に美しさを感じたなんて、むしろ感受性が豊かなのだと思います。どちらかといえば、美しいと感じる基準が高く、ちょっとキラキラしているくらいではKOTARO君のお眼鏡にかなわないということなのかもしれません。
KOTARO君は美しさを感じた時、「心が落ち着き美しいと感じた」と書いています。そういう心の動きこそがKOTARO君にとっての「美しい」なのでしょう。まさに感動できている状態だと思いますが、それを実感するのは、確かにもっと大人になってからかもしれませんね。
難しいと感じながらも、テーマと向き合い、自分と向き合うことで答えを見つけてくれた今回のKOTARO君の作文は、僕にはとても美しいものに感じられました。

塾長




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2018年11月16日

野菜スープ

Chiaki(小6)

 今日の夜ご飯は野菜スープ。どんな味かな?私達は北軽井沢にキャンプにきているのでとても簡単な料理だ。でも、とってもおいしいスープができると思う。なぜなら、野菜スープの中に入っている鳥肉を炭で焼いているからだ。ふつうのお肉でも、炭で焼くとすごくおいしく感じる。だから私はキャンプが大好き。今日の花(犬)のご飯はスペシャルだから花も楽しみにしていると思う。

 いよいよ夜ご飯。ママがおなべのふたを開けると、トマトの匂いがしてきた。するとパパが、
「はずれた〜。」
 と言った。
「「えっ?何が?」」
 とママと私が声をそろえて言う。パパはスープの味が塩だと思っていたみたいだ。ママがよそってくれたスープを見ると、本当に野菜しか見えない。一口食べてみると…。
「おいしい〜。」
 野菜のだしが出ていてとってもおいしい。花もスペシャルディナーをおいしそうに食べている。横を見ると、パパがすごい勢いでスープを口に運んでいる。私もおかわりがなくならないうちにと思って食べ始めた。みんなすごい勢いで食べたので、スープはあっという間に無くなってしまった。
 最後はデザートにマシュマロを焼いた。暖炉の火がちょうどいい具合だったので、マシュマロがこんがりきつね色に焼けた。こげていないのに、中までとろとろでほっぺたがとけていくように感じた。

 今日は、この一週間で最高の夜ご飯だ。こういう夜ご飯がこれからたくさんあるといいなと思った。




家族との食事シーンを、自分以外の家族の描写を含めて書くと言う課題に対して書いてくれた作文です。日頃は宿題は出さないのですが、欠席の週に何か家庭で書ける課題をと言うことでお願いしました。

まず野菜スープが美味しい理由を「肉を炭で焼いているから」と具体的に書いているのが効果的です。ただ美味しいと書かれるより説得力がありますし、読みながら味を想像してしまいました。こうなれば読者が作文に書かれた世界に入っていくのは簡単なことです。野菜スープの味を予想したり、すごい勢いでスープを口に運んだりと、心から食事を楽しんでいるお父さんの様子を読んでいるだけで、ご家族の仲の良い雰囲気が十分に伝わってきます。お母さんの野菜スープ同様に原稿用紙二枚の中に旨味がたっぷり詰まった素敵な作文で、読んでいて幸せな気分になれました。

塾長


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2018年10月26日

今を生きる

YUKI(中3)

 自分は窓を正面に座っていた。
 窓には自分の体と原稿用紙、少し減ったコーヒーが映っている。今日の自分の服は黒をメインとした色が多く、よく見ないと腕より下が見えない。それほど、外はまだライトで明るい。

”自由が丘の駅前は暗くなることはあるのだろうか”

そんなことを思いながらコーヒーを飲んだ。
 外はいつもと変わらず少し騒がしそうに見えた。そう見えただけだ。音は聞こえない。もしかしたら外のパトカーはパトロール帰りではなく不審者の追跡をしていたかも知れないし、駅では何か事件が起きているかも知れない。そんな光景が想像できる。人が死に、辺りには濃い錆の臭いがある。周りの人間が殺されてゆき遂には自分も

「ガラッ。」

 と、コーヒーの氷同士がぶつかり音がした。自分は空想の世界から戻ってきた。

 今の日本は他の国と比べると良い方だと思う。身近に大きな争いはなく、今すぐに攻撃をしてくるようなことはないだろう。しかし、小さな争いが大きな争いへと変わり、日本全国、世界規模まで発展することだってある。この生活も明日には終わりを告げるかも知れない。だから今、この瞬間を大切に生きよう。僕は思う。





 電車の駅前が見下ろせるカフェの窓際の席に一人で座り、自由に感じたことを書いてもらった作文です。

 窓に映った自分の姿の描写に始まり、そこから外へと視線を移し、さらにそれに合わせるように主人公の思考も外の世界へと移っていきます。この時、読者の思考も内から外へと自然に移行していきます。よく計算された上で書かれた文章なのでしょう。ここは読んでいて楽しかったです。
 空想の中では身近に潜む危険への不安が語られます。そしてこの不穏な想像世界の話はどこまで行ってしまうのだろうと思ったところで、それを断ち切るかのような「ガラッ。」という氷の音。たった一つの音で、YUKI君は主人公と読者を現実世界へと引き戻してしまいます。何かが変わる瞬間というのは必ずあるわけですが、それを文章で書くのは難しいものです。その境目は目に見えるとは限らないからです。しかし、それがここでは実に上手く書かれていました。タイミングも音の選択もとても効果的で見事な一行でした。一行の重さや大切さを考えさせてくれる作品でした。素晴らしい!

塾長


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2018年09月28日

秋のおとずれ

KOHAKU(中3)

 「ビュッ。」
 ドアを開けると、ムアッとした夏の暑さと共に、秋らしい涼しい風も少し吹いてきた。
 しばらく歩くと熊野神社についた。夏の初めにRIOと遊んだシーソーが寂しそうに置いてあった。草むら辺りからコオロギが
「リリリリリン。」
 と、静かに鳴いていた。セミと違って、美しい音色で秋のおとずれを教えていた。

 神社を出て道路に出ると、カーディガンを着た女の人が歩いていた。夏とは違って街を歩く人みんな、少しずつ厚着になっていた。私はまだ夏みたいな洋服。タンクトップに短パン。風が秋っぽくなってきただけで、体はそれで調度いい。
 マックでおやつを買ってもらった。いつも暑かったらアイスを買うが、めずらしくシャカチキを買ってもらった。温かくて、久しぶりに食べたからすごくおいしく感じた。先生が選んだポテトも、あったかいのが合っていた。  
 やっぱり秋になってきているみたいだ。私は少しばかりそう思った。九月に入ったらもっとコオロギの綺麗な音色も聞こえてきて、街行く人々の服装も長袖になってくるのかな。





8月の終わりに、秋の気配を探しに散歩に出た時の作文です。

「夏の初めにRIOと遊んだシーソーが寂しそうに置いてあった。」は季節の描写とは直接関係はありませんが、いなくなった友達を思い寂しく感じる気持ちと、日本人が感じる秋の少し寂しい雰囲気が上手く繋がって、季節感を浮き上がらせています。その雰囲気はそのままコオロギが鳴いている描写まで続き、前半部分は秋の気配を探すと言う課題にぴったりの、少し静けさがあり、しっとりとした美しい文章となりました。
 後半は対照的に少し元気な感じを出して、周囲に秋っぽさは見つけつつも、自分の中ではまだまだ夏も続いているよ、と言う正直な気持ちが感じられます。この辺りの描写は、季節感とともに主人公の明るく元気なキャラクターも読み取れて、文章の中にKOHAKUさんらしさを感じることができました。

 ちょうど季節が動き始める頃の、夏と秋が同居している街の様子を、上手に書き分けてくれました。

塾長



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2018年09月21日

川遊び

KOKORO(小6)

 「あっカエル。」
 そのカエルは、茶色で六センチメートルくらいだ。ピョンッ。カエルはすぐに青々としたしげみの中にかくれてしまった。しげみはひざくらいまであり、蚊もたくさんいた。
「やめよ。」
 と言って私はしげみに入るのをやめた。その時に二センチメートルくらいのカエルが二匹出てきた。また、茶色だ。私は、ゆっくり近づいて行った。カエルの後ろまで行くと、親指と中指でつまんだ。そして頭を人差し指で抑えて飛びはねないようにしながら取った。もう一匹も同じように取った。捕まえた二匹ともかごの中に入れた。
 妹たちも魚を捕まえたらしく、私の方まで来て、見せてくれた。
「ふうん、小さいね。」
 と言うと、
「でも、すごいでしょ。」
 と言ってきた。妹が取れるのも当たり前。あみを持っていたから。適当にやっていても捕まえられる。
「あ〜そうですね。すごいですね。」
 私はうんざりしたので適当に返すと、
「ここは、何捕まえたのよ。」
 とムッとした口調で言われた。
「カエルだけ。もっと捕まえたいんだからあっち行ってて。」
 と言っても、なかなか動く様子がない。一回上がることにした。その時。ピョンピョン。見てみると、カエルがたくさんいた。湿っているところが好きなカエルたちは、木の下にたくさんいる。五、六匹捕まえた。その中にあの六センチメートルのカエルもいた。
 「ここ〜ちょっと来て。」
 と私を呼ぶ父の声がした。
「は〜い。なあに。」
 と言うと、
「上流の方行くって。」
 母が言った。でも声が聞こえてくる方は、私がいるところより下流だ。
「早く〜。」
 弟の声だ。
「はいよ。今行く。」
 川に入り、声のする方へ行った。もう一つ分かれ道があり、私はゴツゴツした岩がたくさんある方へ行こうとしていた。
「え〜そんなとこ行くの。けがしそう。」
 予想通りけがをした。それは私だ。くつが流されそうになり、取ろうととしたら突き指。川の水で冷やしていられたのであまり痛くなかったけれど。

 「そろそろ帰るよ。」
 母がのんびりした口調で言ってきた。
「カエル逃してなかった。」
 と言って私は虫かごを開けた。カエルを逃がすと妹がそのカエルを捕まえて、水に落とした。私は大きいやつを地面に置いた。ピョンピョンとカエルは元気にとびはねて行った。




 夏休みの出来とごとについて書いてもらいました。

 家族で過ごす休日の作文というと、ややもするとただ楽しいばかりの作文になりがちです。でも、この作文の中で印象的なのは、姉妹のちょっとしたライバル心や、少六の女の子だからこその少しピリピリした空気感でした。姉妹二人の会話はどこの兄弟や姉妹にもありそうなもので、二人の関係性が上手に描かれていてリアルです。その一方でカエルを見つけた場所やその捕まえ方など、実際に経験したからこそかける情報が多く、自然に対する生き生きとした描写が多く見られました。逃したカエルが最後にピョンピョンと元気に去って行く描写からは、自然に対する筆者の愛情も感じられます。
 ところで本人に聞くと、姉妹の関係性にしても自然に対する考え方にしても、そこまで狙って書いてはいるわけではないとのこと。でも無意識だとしても、これらを入れられたことにはセンスの良さを感じました。
 KOKOROさんは書き始めて5ヶ月ほど。まだあまり多くを求めるのは酷な時期ですが、この作文は、今のKOKOROさんらしさが滲み出ていて、素敵な一編になりました。

塾長
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2018年06月28日

くやしいな〜でも気にしない

SUMIRE(小5)

 五月二日から五月五日まで私と親友三人とその家族で九十九里へキャンプに行った。
 私は五月三日にちょっとくやしい思い出ができた。それは、つりの話だ。
 私の弟の趣味はつり。弟の将来の夢は、マグロをつる人だ。そんな弟がキャンプで
「ぜったいつりやるからね。」
 と言ったので、行くことになった。私は弟と違ってつりがあまり好きじゃないけど、やらないよりはやった方がまだいいのでやった。
 やったら、弟がなんとイナダをつった。イナダとは、ブリの子供だ。それで弟は飛び回っている。私はそれが頭にきて、くちびるをかみしめた。そして私もとってやろうと思ってやったら、タイがつれた。
「なんだ〜。」
 このつり場は、タイがほとんどで、イナダはあまりつれない。私がつったタイは引きが良かったのに…。
 イナダはレア物だ。イナダをつった時、係のおじさんが
「レア物がつれたね。」
 とか言っていた。私の親友までが興奮していた。だから私もがんばる。と、力を入れて池の中にさおを入れたら、魚は来なかった。
 それが何十分かがたち、さおを上げると、小さなエビがふにゃふにゃになっている。私の肩がストッと落ちた。気合がぬけた。でも気を取り直してまたやることにした。
 そしてエビを変えた。三分たった。その間ずっとボケーとしていたら、いきなりグイッと引かれてさおがつり場の中に入っていきそうだった。だから、さっきの気合を取りもどせた。そして魚のかげが見えた。つれたのはタイ。タイの所に、もみたいな物が付いていた。
「ちょっと重かったのは、ものせいか〜、ついてないな〜。」
 そう私がつぶやいた時、私と反対側の人がイナダをつった。そのうちに勢いよく何人かがイナダをつり、もうダメだ〜と思った。
 つりが終わり、つかれすぎたのでキャンピングカーに親友一人と一緒にもどった。弟と他の親友二人はまだつりをしている。でも私と親友一人はキャンピングカーでずっと「ミニオンズ月どろぼう」と言うDVDを見ていた。そのDVDはミニオンの一番最初に出たやつだった。
 しばらくして、全員つりが終わったらしく帰って来て、他の親友が
「すごく沢山つれたよ。」
 と言った。私は二匹しかつれなかったけど、別に私はつりが好きじゃないからいいか。私は、友達と一緒にDVDの続きを見た。
 その日の夜、タイ飯とイナダは最高だった。




 気持ちの表し方について意識しながら書いてもらった作文です。

「私はそれが頭にきて、くちびるをかみしめた。」や「私の肩がストッと落ちた。」など、その時の仕草を描くことで気持ちの表現を上手にしてくれています。また何十分も思うように釣れない時に書かれた「さおを上げると、小さなエビがふにゃふにゃになっている。」と言う表現は秀逸でした。気合い十分で挑んだものの、結果が出ずに気持ちが萎えていく中で、エサのエビを見るとふにゃふにゃになっていると言う、なんとも気持ちに合った情景描写で、これを狙って書いているとしたら末恐ろしい小学5年生ですね。
 全体的には、弟に対する対抗心を持ちながらも、撤退を決めてから悔しさは出さないと言う微妙なお姉さんの心境が隠さず書かれているのにも好感を持ちました。最後の「その日の夜、タイ飯とイナダは最高だった。」の一文は、本当に気にしていないようにも、負け惜しみのようにも、色々と受け取れる終わり方で興味深いです。
 少5の女の子の複雑な気持ちが感じられる作文で印象に残る作品でした。

塾長


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2018年06月22日

五時間かけた甲斐あり!!

AOI(小6)

 「はぁ、まだかな〜」
 妹がため息をつきながら言う。それもそうだ。なぜなら朝七時に家を出て、もう5時間もたっているからだ。妹とそんなことを話している。今日は、お母さんの希望で静岡にあるハート型のがけを見に行く。
「一キロ先目的地周辺です。」
 このナビの音が流れた瞬間、妹が、あとちょっとコールを始めた。
「あと、ちょっと、あとちょっと。」
 ノリに乗って、あとちょっとコールを始めた妹とふざけて踊りも入れて遊んでいると、お母さんが、
「着いたよ。」
 と言った。車も、もう駐車場に止まっていたので早速外に出た。

 少し歩くと案内板があった。すぐ右の場所に階段があった。妹が真っ先に階段へ行った。すると妹が
「ここ立ち入り禁止になってるよ。」
 そんなバカな。そう思いながら行ってみると、立ち入り禁止と書いてある札が階段の前に置いてあった。それに気付いたお母さんがスマホで調べてみると、この地域だけに発行されている新聞があり、それには「崩落事故で閉鎖」と言う見出しがあった。それを見たお母さんと妹は口をそろえて、
「五時間もかけて来たのに〜。」
 と言った。僕は、来る気は無かったけれど、五時間もかけて来たんだから、一瞬でも神秘的なものを見られたらいいなと思っていたので、事故で見られないなんて不運すぎるなと思った。
 お母さんと妹が肩を落としていると、お父さんが、
「ちょっと楽しそうなところがあるみたいだよ。」
 となぜか自慢げに言った。
 
 虫しかいなかった。妹は少し怖がりながら歩いていた。道なりに十五分くらい歩くと、でかい砂山とすき通った海があった。
 砂山のふもとには「滑れます。」と書いてあり、看板があったのでソリを持ってくることにした。砂山はとても高くて頂上に登るまで五分くらいかかった。おまけに砂山は太陽に当たっていて、とても熱かった。ソリも持っていたので登りも熱さも倍増した。
 頂上についた。高すぎて足がふるえた。
 いざ滑ろうとすると、お父さんが砂山のふもとの方から
「ちゃんとひも持つんだぞ〜。」
 僕は返事を返すと砂山をすぐに滑りおり始めた。一回目はどんな感じか分からなかったので、お父さんの言う通りひもを持って滑ることにした。気持ちも落ち着いたのでレッツゴー。すごく怖かったのか、だんだん前のめりになっていて、砂山の中間地点で転んでしまった。二回目は、一回目のこともふまえ、ひもを持ちながら後ろに反って無心で滑ることにした。もう一回気持ちを落ち着かせてレッツゴー。勢いがつき始めたぐらいの時、風の音が聞こえた。久しぶりに聞いたのでとても気持ちよかった。最後の方は怖さは無くなって楽しくなっていた。十回程やると、お母さんが、
「そろそろ帰ろうっか。」
 と言って来た。僕は、
「あと一回お願い。」
 と言ってラスト一回を滑った。最後のは無心で滑った。滑り終わると、妹と一緒に
「楽しかった。」
 と言い合いながら車に向かった。少し驚いたこともあったけど、楽しい一日だった。

 車に戻ると妹はすぐにいすを倒して寝る体勢に入っていた。僕も、疲れたので、音楽を流しながら寝ることにした。その後は寝てしまい。ものすごく高い山に登って滑り下りたという夢を見た。僕と妹はいつまでもずっと滑り続けていた。




家族での日帰り旅行の様子を、気持ちの表現を意識しながら書いてくれました。
「肩を落とす」、「足がふるえる」など感情に合わせた仕草の描写を上手に使ったり、「はぁ、まだかな〜」、「ちゃんとひも持つんだぞ〜。」のように、妹さんの待ちきれない気持ちやお父さんが子ども達の安全を思う気持ちをセリフを使って表現したり、工夫が多く見られて好感が持てます。個人的には砂山滑りの二回目の部分で『勢いがつき始めたぐらいの時、風の音が聞こえた。』の部分が格好良いなぁと思います。一度目には気づけなかったことに、少し余裕のできた二度目には気づけているという、主人公の小さな気持ちの変化が書かれているのがすごく良いです。またこの日の楽しさが強く伝わってくる『僕と妹はいつまでもずっと滑り続けていた。』という夢の内容で終わったのも素敵でした。素晴らしい!

塾長


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2018年05月18日

「夏」

RISA(中1)

 「タンッタンッタンッ…」
 階段を下り終わると、空の色が水色からオレンジ色に変わっているのに気がついた。
 歩いていると、何度か風が吹いてきた。ついこの間まで、寒いと感じていた風だが、今は少し涼しく快適だと感じている。
「ザワザワザワッ…」
 風が吹くことで、木の葉がざわつき、夏によく聞く音が私に耳に届く。

 途中でセブンイレブンに寄り、アイスを買ってもらった。私は、「チョコモナカジャンボ」というアイスにした。店を出るとすぐに袋を開け、食べることにした。

 「サクッ、パリッ。」
 モナカの皮と、チョコの音が聞こえたと同時に、口の中にバニラとチョコの甘さが広がる。冬や春には冷たいと感じていたアイスが、ちょうど良い冷たさになっている。

 アイスを食べながら歩いていると、夏の匂いがした。
「もうすぐ夏が来る。」
 心の中で私はそう思った。 




 4月末に塾の近所を散歩してから書いてもらった作文です。

 中学受験を終え、目標を達成したばかりのRISAさんの心境が、季節に対する表現の形を借りて、実に素直に出ているように感じました。
 カラフルな色が生まれ、寒さは快適さに、さらには夏への期待感が生まれ…。それらの変化から伝わって来る主人公の喜びと希望に満ちた空気が、読んでいてとても心地良く、僕の中にも染み込んできました。日頃は忘れている、何かが始まる時のときめきを、この作文は思い出させてくれたように思います。
 これからの中学校生活に向けて、RISAさんには、今感じているワクワクやドキドキ感を忘れずに、思いっきり走り出して欲しい、と強く感じました。

塾長



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2018年04月05日

春雪(はるゆき)

MIYU(中2)

 キラキラと目に眩しい街の喧騒を拭い払うようにしてスニーカーの靴先で石畳を数秒前よりもテンポよく蹴り飛ばす。
 遊び盛りな夜風が解かれた髪にじゃれつくのを指先でたしなめる。
 カラリと乾いた喉が必死に水を要求するのに気がつかないふりをしていた。
 ハラハラと降る淡い春の雪。人気(ひとけ)のない路地裏の小さい公園の真ん中で、それは根を張り、幹を伸ばし、枝を天高く掲げていた。
 木の皮は所々ささくれて、おじいさんの手のように、厳しさと優しさを伝えてくる。
 いたずら好きな夜風は飽きてきたのかブランコにちょっかいをかけては面倒臭そうにあしらわれている。
 人間(ひと)の時間、物の時間、町の時間、桜(はな)の時間。全ては有限で、悠久の時なんてなくて。
「儚いなぁ。」
 なんて一人心地に呟いてみる。少し桜を見過ぎたのかもしれない。
 心配そうな春風がそっと覗き込んでくる。
「ん。大丈夫。帰ろうか。」
 桜が散る前にもう一度ここに来よう。時はもう少し残っている。

※学年は作文を書いた時点のものを記載しています。




 MIYUさんにかかると、風も桜の木もブランコも、周りにあるあらゆるものに生命や心が宿っているかのように感じられます。実際にMIYUさんはそういう世界にいるのかなぁなんて感じることもしばしばです。この人は僕の見えない世界が見えている、なんて真剣に感じてしまうのです。そして、その世界に向けられるMIYUさんの目線は繊細で優しく、すっかり涙もろくなった年齢の大人が読むと、うっかりホロリとさせられそうです。
 例えば「木の皮は所々ささくれて、おじいさんの手のように、厳しさと優しさを伝えてくる。」の比喩一つとってもMIYUさんの人に対する優しくて深い捉え方が感じられます。『しわくちゃなおじいさんの手のようだ』と書くなら、よく見かける比喩ですが、そこに厳しさと優しさを持つ存在というおじいさんに対する彼女自身の見方が加えられているので、それなりの年齢を重ねた僕としては、なんだかとっても穏やかな気持ちで読めるのです。もちろん優しさばかりが書かれていれば、興ざめすることもあるのですが、いたずらな風がいたり、時間に限りがある儚さに触れられていたり、MIYUさんに見えている世界も甘いばかりではありません。そこは僕が知っている世界と同様に永遠ではなく、現実的な辛さもちゃんと含んでいるのです。
 ところで僕がもっともドキっとしたのは最後の「桜が散る前にもう一度ここに来よう。時はもう少し残っている。」という部分です。僕は自分に残された時間の大切さに思いを馳せました。でも冷静になると、中学生の女子が書いた作文を読んでこんなことを感じさせられるなんて、やっぱりMIYUさんは僕と違う世界で違う時間の中を進んでいるのかなぁ、などとまた考えてしまうのです。

塾長


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2018年04月04日

桜を見て思ったこと

KOTARO.I(高1)

   桜を見ていると、別れを告げた友達のことを思い出す。昔は当たり前のように学校で会ってたのに、今は、長期の休みに仲の良い友達と会うくらいだ。そう考えると、僕は時間が過ぎたのだなと実感する。
 時間とは不思議だなと僕は思う。なぜなら時間は、当たり前のようにずっと進んでいるからだ。そして、もう一つ不思議なことがある。それは、楽しくて、好きなことをして過ごす一時間と、全くすることがなくて、ずっとぼーっとしている一時間では感じ方が違うということだ。
 事実上は、同じ一時間ではあるが、前者の一時間はあっという間に感じるが、後者の一時間は、気が遠くなるほど長く感じる。
 今僕の目の前にあるきれいな桜も、時が過ぎれば、花びらが全て散り、それからさらに時間が経てば、また当たり前のように花を咲かせる。その繰り返しなんだなと僕は思う。
 僕は時間が停止した瞬間に直面したことが無い。アニメや漫画ではしょっちゅう時間を止めたりしているが、実際に時間が止まったらどんな感じなのか全く想像がつかない。そして、時間は、いつからどのようにして始まったかも全く想像がつかない。僕は、時間はビッグバンが起きて、宇宙が誕生して、色々なことが起きて、地球が生まれて、僕が生まれるよりもずっと前の、全く何も無い完全な無の世界からあるのではないかと、桜を見ていて思った。

※学年は作文を書いた時点のものを記載しています。




 毎年春になるとほんのひと時だけ咲き誇る桜。そんな桜を見ながら、KOTARO君は時間に関する壮大な考察をしていたのですね。
 時間は決して止まらず、ただ前に進んでいること。それでいて時間の流れ方が気持ちによって異なって感じられること。また時間の中には桜の活動のように繰り返しがあることなどなど。
中でも僕が最も惹かれたのは「時間は、いつからどのようにして始まったかも全く想像がつかない。」の部分です。確かに時間の始まりってどこなのでしょうか。宇宙の果てについて考えた時と同じくらい想像もつかない問いかけに、自分がこの世で生きる時間の短さを思い知り、自分の存在の小ささを思わずにはいられません。

 今回の桜を見る散歩の中で、ただ美しいと思うだけでなく、そこから様々なことに想像を広げていく見方をしてくれたのは、とても嬉しいことでした。

塾長


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2018年03月31日

It〜 イット

IBUKI(中3)

  袋を開けると白い冷気が出てきた。袋から取り出そうとすると袋にくっ付いて素早く取り出すことができなかった。棒を持ちながら歩いていると、手に冷たい空気が落ちてきてひんやりした。それは妙に冷たく口に入れると頭が痛くなりそうだった。
「ポトッ。」
 それの表面についた氷が溶けて地面に落ちた。それからまた、それの表面は少しずつ凍り始めた。私はサッとその凍った部分を触った。だがその表面はあまり冷たくなく、触ったところだけ凍った部分が溶けているだけだった。
 数分が経った頃、それは少しずつ溶けてきて、指に溶けた水分がつきそうだった。私は急いでそれを食べようと思い、角から食べ始めた。それを食べていくうちにあまり冷たさを感じなくなった。いつの間にかそれは全て無くなっていて、ただの棒になっていた。




 当塾では作文のネタ作りのために散歩をしては、道中、冷たいものや熱いものを食べてみることがあります。この作文は少し前の真冬に食べたガリガリ君を書いたものです。

 IBUKI君は、あえてガリガリ君の名前もアイスキャンディーだということも伏せて書いてくれました。
 袋を開けると漂う白い冷気や、アイス自体が袋にくっ付いて取りにくいなど、季節感と合わせたガリガリ君の描写がよく書けています。個人的には「棒を持ちながら歩いていると、手に冷たい空気が落ちてきてひんやりした」の部分がとても好きです。視覚だけでなく、指の皮膚の感覚を使った表現は、とても具体的で、読む人の想像力をかきたてるでしょう。
 日頃から、ものや場所の名前に頼らず表現することを求めている僕としては、この作文はちょっと挑戦的であり、実験的でもあり、読んでいて楽しいものでした。
 ただ一つ申しておきますが、僕は何も真冬に冷たいものばかり食べさせているわけではなく(笑)、この時は、肉まんとアイスキャンディーで希望を聞いたところ、生徒の大半がなんとアイスキャンディーを選んだのです。真冬でもアイスキャンディーを楽しめる子ども達の胃袋の健康さが、ちょっぴり頼もしくも、羨ましく思ったのを覚えています。

塾長


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桜の楽しみ

SHINOMI(中3)

 「あはははっ。」
 花見。緑道では毎年のように、お花見をしている人たちが沢山いる。片手にビール。もう片方の手には、団子ではなく、焼き鳥または、チーかま。枝豆をくわえている人もいる。アルコールが回ると帰れなくなってしまう人は、焼き鳥やみたらし団子を食べていた。久しぶりに会う友達。毎日のように顔を合わせている会社の同僚。観光。散歩のついでに花見を楽しむ人。色々な人が同じ場所で色々な話をしていた。時が経つことを忘れて、個人の世界に入り込んでいる人もいた。
 どの人にも共通していることは、笑顔だということだ。皆につられて笑ってしまう人や、なぜ面白いのかわからないが笑っている人。アルコールを飲んで気持ちがウキウキして笑っている人。中には皆に合わせて笑っている人がいるかもしれないが、それでもどことなく楽しそうだった。

 そんな光景を桜は毎年見ている。人間が桜を見て楽しむように、桜も人間を見て楽しんでいるに違いない。人がいなくなると、緑道はしんとなり、桜も少し寂しそうに見える。
 人が楽しい時間を短く感じるように、桜も楽しい時間を短く感じているんだ。きっと今も、緑道で楽しんでいるやつがいるはずだ…。




 花見客が食べている物、飲んでいる物の観察から始まり、次にどんな関係の人々がそこに集まっているのかに触れながら、一見バラバラに見える花見客について、SHINOMIさんは笑顔という共通項を見つけ出します。まずその手法に上手いなと感心しました。ただその反面、誰もが笑顔というのは少々都合が良いのではないかなぁ、と感じつつ読み進めました。すると、つられて笑ってしまう笑顔、理由もわからず笑ってしまう笑顔、周りに合わせて作っている笑顔、アルコールによる笑顔…と単純に心から笑っているわけではない笑顔が次々に挙げられていきます。そして、そのどれもが結局はどことなく楽しそうだとSHINOMIさんは捉えるのです。ここまで読んで、なるほどと腑に落ちました。確かに心からのパーフェクトな笑顔でなくても、皆が楽しい時間を過ごそうと思っているし、結果楽しめているし、そういう状況を作り出す効果が花見にはあるのだと気付きました。人付き合いの悪い僕などは、大勢で行く花見には初めから腰が引けてしまいご遠慮することも多いのですが、一人一人が少しでも笑顔になれて、そういう笑顔が集まればきっとそこは幸せな空間になるのですね。花見というものに対する考え方が、僕よりSHINOMIさんの方がよっぽど大人だし、素敵だなぁと感じました。
 さらにこの作文で良いなぁと思うのは、人間が楽しんでいる様子を、桜もまた楽しんでくれているという考え方です。そう理解してから読むとタイトルもなかなか意味が深いですね。
 人と桜がひと時を共にし、そこに幸せな空間が生まれるというなんとも平和で穏やかな世界。人と自然の共生について、少し前向きな気持ちにしてくれる作文でした。

塾長


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2018年03月30日

僕達のために

KOYO(中2)

「今日が満開の模様です。」
 夜、桜を見ていると、そんなことをニュースで言っていたことがふんわり頭に浮かんだ。
 桜は街灯に照らされ、花びらが透けている。桜の下ではブルーシートを敷いて花見をしていた。人々はビールを片手に仲間達と話すことに夢中になっていた。桜なんか見ずに。しかし桜は人を上からそっと見守っていた。

 枝が切られている桜の木を見つけた。それは、人が除いたのだろう。決して細くはない丈夫な枝は、つぼみを作ることすらも許されなかった。僕達は見られないが、その枝は空へ年輪を見せているだろう。彼が生きてきた時間を。時間は止められない。枝は、過去に振り回されず、後ろを振り向かず、空にまた新しい時間を見せてくれるだろう。そして、白い花びらを産み、その下で僕達が花見をするのを見守り、いつものように、無視されても許してくれるはずだ。



「桜」と「時間」の二つのキーワードを入れて書くという課題に対する作文です。

 まず目についてたのは「ふんわり頭に浮かんだ」の部分。桜のことを書いているのではないのに、どこかテーマである満開の桜の花を連想させる表現で上手い書き出しです。

 やや身勝手に読める人々の姿はKOYO君の大人社会に対するやんわりとした批判精神の表れでしょうか。その後に来る桜に対する表現と実に対照的です。
 不条理な出来事や過去に対して、振り回されず、振り向かず、自分らしく生き生きと過ごし、他者に対しては寛大である桜の姿は、KOYO君の中にある自然や地球に対する畏怖心の表れであると同時に、KOYO君の求める人としての理想像にも読めます。
 正義感が強く、まっすぐであろうとする書き手の気持ちが伝わって来る作文でした。

塾長


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2018年03月25日

時間とは

OTO(中2)

「体の細胞は、常に入れ替わっているんだよ。だから、昨日の自分はもういないとも言える。」
 と先生は言った。さらに
「でも、細胞がリレーをしてくれているから今の自分がいるんだよ。」
 と言った。
 じゃあ、全ての生命体は、みんなでリレーをしてることになるのかなぁなんて思う。
 一つ一つの生き物は、自分の中でリレーをしているし生物全体でもしている。一度に二つのリレーを走るのは不思議で面白い。
 それに、自分のリレーは、自分の命が終わればそれでおしまいだけど、全体のリレーは、地球のある限り続く。自分を中心に考えなければ、生物全体で一つの生き物のようにも見えるし、細胞一つでも生き物のようにも見えるから面白い。
 もし生物全体で一つの生き物ならば、僕も細胞のような存在で四十何億年の十四年でとてもちっぽけに思えた。
 地球という一つの生物の中で僕という一つの細胞が生きているのは頭では分からないほどスケールが大きい。




引き続き、時間をテーマに書いてもらった作文を紹介します。参照「時間について」

僕らは小さな細胞の集合体である一方で、僕ら自身もまた大きな生命を作る細胞の一部である、という考えはとても新鮮でした。小さい細胞が生きられる時間や、人が生きられる時間は長くはないけれど、もっと大きな生命を思う時、僕らの命の時間は半永久的と言っていいほど壮大なものになるのですね。またそれぞれが全体になり、部分になり、同時に二つのリレーをしているという考え方にも感心しました。言い換えれば、生物は皆、二つの時間を生きているとも言えるのですね。
時間について考えるところから始まって、命のあり方にまで想像が広がっていくOTO君の作文を読んでいると、命の源について、色々な考えが浮かんで来ます。今後も自由な想像力を大切にして書き続けて欲しいです。

塾長


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プロフィール
名前:塾長
自由が丘で作文教室を運営。
小学生から高校生まで広い年齢層の子供たちとともに、書かされるのではなく、書きたくなる作文を目指して活動中。