2019年02月02日

試験のこころえ

KOTARO.Y(高2)

「寒っ…。」
朝起きて、一番初めに発せられた言葉。
ここ最近、毎日言っている。
今日も何の変哲もない普段通りの朝に見える。
いや、見えて欲しいという願望なのかもしれない。
はぁ…。
朝からため息が出る。フリースを羽織って、部屋を出てご飯を食べに下の階へ向かう。
ヨーグルトを食べてからパンを噛る。朝のニュースを聞き流しながらお茶を一口飲む。
ふと冷蔵庫に貼ってあるカレンダーが見えた。
『試験日』
赤い文字で書かれ花丸で目立つようになっているその日、今日だ。
はぁ…。
自然とまた、ため息が漏れた。
食器をシンクに置いて、自分の部屋に戻る。上に上がろうと階段を二、三段ゆっくりと上る。ふと足が止まり、壁にもたれかかって階段の上を眺める。
頭が、コツン…、と壁にぶつかった。
何でもないのに、急に泣きそうになった。
時間は、刻々と過ぎていく。
重たい足をどうにか上げて、一歩前に踏み出した。その勢いのまま階段をかけ上がった。
ドアを開けて部屋に入る。着替えて洗面所に向かう。歯を磨いているとき、ふと鏡を見た。正面には、不安そうな顔をした奴がいた。
クチュ、クチュ、クチュ…、口を濯いで、吐き出す。冷たい水で顔を洗い、顔をタオルで拭いて、引き締まった顔でもう一度鏡を見る。
そこにはやっぱり不安そうな顔をしてる奴が立っていた。
後ろを向いて、部屋のドアに手をかけた。何となくもう一度、鏡と向き合った。
やっぱり不安そうな奴がいる。
握りこぶしを作って、心臓を二回叩く。
ドン、ドン。
拳を正面に向け、向こう側と合わせる。
顔を上げると、正面には余裕そうな顔をした奴がいた。そいつに向けて、ちょっとイジワルそうに言った。
「せいぜい、頑張れよ」
部屋に入り、バックと携帯を持って部屋を出る。鏡はもう見なかった。
階段を駆け降りると、廊下に婆ちゃんが立っていた。
「何をそんな急いどんの。何か良いことでもあんのかい?」
「はぁ…。テストがあんの」
「あぁ、テストか」
「そうそう」
「まあ、楽しんできな」
「はぁ…。婆ちゃん、楽しいわけないじゃん」
「何、言ってんだい。あんたは、死ぬ訳じゃないんだし。せっかくやるなら楽しみな」
「ハイハイ。行ってきまーす。婆ちゃん鍵閉めといてー」
そう言って、玄関を開けて走り出した。

 電車に乗り込むと、周りには多くの学生がいる。皆、単語帳や教科書を開いて勉強している。鞄から単語帳を取り出して、最後の追い込みをかける。電車に揺られていると、段々と嫌な雰囲気を感じた。
お腹が痛い…。
電車に揺られながら便意に耐える。
あと、三駅…。
あと、二駅。
あと一駅。
駅に着くと勢いよく、ホームに飛び出して看板を見た。
(右だ。)
誰よりも早く、ホームを駆け抜けて、階段を登り、トイレに駆け込んだ。携帯と、にらみ合いながら、トイレを済ませる。しかし、なかなかすっきりしない。
下痢が続く。
段々と時間が過ぎていき、トイレを出た頃には、試験十五分前になっていた。
(ヤバい。ヤバい。)
走って試験会場に向かう。玄関の前に着くと、六十代くらいのおじさんが立っていた。
「大丈夫?走ってきたの?」
「はぁ、はぁ、はぁ…。大丈夫です」
「そこの階段上がって二階だから」
そう言ってドアを開けてくれた。頭を下げて中に入る。

 教室の扉を開けると、既に多くの受験生が座って、教科書や参考書、ノートなどを読み返していた。
「受験票を机の上に置いて、静かに待っていて下さい」
解答用紙と、問題用紙が配られる。
「それでは、始めてください」
一斉に、紙を捲る音が聞こえる。
まだ開かない。
目を瞑って、大きく深呼吸をする。
目を開けて問題用紙を見ると、婆ちゃんの言葉を思い出した。
「楽しんできな」
なんだか、面白くなって、つい、頬が緩んでニヤっと笑ってしまった。
一ページ目を捲る。

 楽しんだもん勝ちだ。



 受験シーズンまっただ中のこの時期、多くの子どもたちが不安と戦いながらも目標を達成するために、ドアを出て行きます。親としても、塾の講師としても、なんとも胃がキリキリする季節です。
 今回は、来年には自分自身が受験生となるKOTARO君にお願いして、受験生へのエールとなる作品を書いてもらいました。お願いしてからほぼ1時間で、さらさらと書き上げられた短編は、さすが現役高校生が書くだけあって、試験を目前にした心境や体調の変化がリアルに書かれています。でも、ただ大変なだけでなく、ちゃんと「楽しんだもの勝ちだよ」というメッセージも込められていて、素敵なエールにもなっています。厳しい時間の中にもちょっと温かさを感じられる作品で、多くの受験生に読んでもらいたいなぁと思いました。

塾長








posted by 塾長 at 12:31 | Comment(0) | TrackBack(0) | 作文紹介
プロフィール
名前:塾長
自由が丘で作文教室を運営。
小学生から高校生まで広い年齢層の子供たちとともに、書かされるのではなく、書きたくなる作文を目指して活動中。